第9話 英玲奈の帰還
「英玲奈さん、お帰りなさい!」
響が嬉しそうに英玲奈に駆け寄り、そのまま抱きついた。
英玲奈は優しく抱き止めて、苦笑しながら呟く。
「ハァ、全く、随分成長されたかと思いましだが、気のせいでしたか・・・・」
その言葉を聞き、ムッとして響が少し身体を離して英玲奈の顔を見て言う。
「英玲奈さん、ひどいです」
「そうでしょうか?」
英玲奈は小首をかしげて惚けた。
将も英玲奈の所に来た。
「英玲奈さん、お帰りなさい。お久しぶりです」
英玲奈が優しげ微笑み答える。
「はい、ただいま戻りました。将様もお元気そうで何よりです」
そして将をじっと見つめて何かを確信したかのように頷いて言った。
「将様、随分成長なさいましたね。見違えました」
「えっ?」
将が、驚き否定した。
「いやいや、そんな事ないですよ。姉さんならともかく・・・」
「いえ、先ほど響の死角をすぐ警戒していましたし、今も周りの
響は英玲奈から離れ、驚き将を見た。
「将、あなたいつの間にそんなことを・・・」
将は頬を指で掻いて照れ笑いした。
「将様は実戦で実力を発揮する方ですね。流石は真様と凛様のご子息です。ですが、響様は少し気が緩みすぎです」
「うっ、ごめんなさい・・・」
確かに響自身、英玲奈を認識した時から気が緩んでしまった。
響達が通学や外出する時は、必ず影人(ごえい)が就いている。周りに気づかれない様に行動する為、余程の者でないと影人は特定出来ない。
無論、響達も面識はない。
将はその影人を瞬時に確認して見せた。周りの警戒も怠らず。
すなわち将の実力は並大抵ではない。将の年齢としてはかなりの腕前だ。英玲奈が褒め称えるのも無理はなかった。そして、それが一目で見抜ける英玲奈もやはり只者ではかった。
将や響達が物心がつく前から西蓮寺家に住み込みで遣えている
響達にとっては、姉のようでもあり両親以外では一番近しい家族同然の人物である。
5年前に両親からの指示で任務の為、屋敷を出てからは一度も帰宅はなく、響達姉弟も心配していた。
だが両親には定期的に報告をしていたようだった。
特に響は幼少時、学校を休みがちだった為、英玲奈が毎日側について家庭教師をしていた。また体力向上のインストラクターでもあった。
響が昔も今も敬愛し理想の女性である。
一部を除いて。
厳しい口調で苦言する英玲奈。
「私に気づいた途端に、気を緩めすぎですね。もしも私が刺客だったらどうするのですか?」
響がうつむきながら上目遣いで言い訳を言う。
「それは、英玲奈さんだと分かったから。それに刺客なんて英玲奈さんに限ってそんなこと・・・」
「想定外は何時なんどきもあり得ます。ましてや、5年振りの再会なのですよ?せめて将様位の警戒はすべきかと」
「だって、嬉しくてつい・・・・」
「全く。響様は、まだまだ修練が必要ですね?」
「・・・・はい、精進します」
そう、この手厳しさだけは見習いたくないと子供の頃から強く思っていた。
しかし響自身も、この2年近く将に対して似たような事をしていたのだから、ある意味では理想像に近づいたかもしれない。本人は全力で否定するだろうが。
「まぁまぁ、姉さんもそれだけ嬉しかったって事だから。それで英玲奈さん、帰って来たんですよね?」
将が響を庇いつつ、一番確認したい事を質問した。
「はい。任務は完了いたしました。今後は響様達のお側に戻ります」
「良かった」
「本当に?本当に帰って来たんですよね?英玲奈さん」
将が嬉しそうに頷き、響が更に確認をする。
「はい。嘘ではありません。これからはずっと響様達のお側にいます」
響が満面の笑みを浮かべて、再び英玲奈に抱きついた。
「嬉しい。やっとまた一緒にいられるのですね」
英玲奈も嬉しそうに微笑んで響の頭を優しく撫でながら言う。
「はい、私も嬉しく思います」
しばらくして落ち着いたのか、響が離れて英玲奈に聞いた。
「それで英玲奈さん、私達を迎えに来たって言いましたよね?」
「はい。お二人のご帰宅が少し遅いので凛様いえ、奥様のご指示で参りました」
英玲奈も仕事モードに切り替えた様だ。簡潔に説明する。
「そうでしたか。お手間をとらせて、ごめんなさい。急いで帰りましょう」
「そうだね帰ろう。英玲奈さんも」
「はい。帰りましょう」
三人はそう言って家路を急いだ。
ただ響と将の足取りは、英玲奈と再会する前とはうってかわりいつも以上に軽やかになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます