第8話 2年前の回想 side響(後)
『何も恐れる事はない。お前は大切な娘であり家族だ。これからも何があろうと、それは変わらない』
あの日の翌日に、両親から自分の出生の真実を聞かされた後、父が言ってくれた言葉。
体調の事もあり、まだ詳しくは聞かされていない。
ただ自分が本当は異世界で生まれ、自分の命を救う為にこちらの世界に託された事。
産みの親は、母の実姉と言うこと。
母と同じく、異能力を自分がもっている事。
正直に言えばまだ信じたくない気持ちはある。だがあの現象と母の異能力を目の当たりにしてしまった事で否応なしに真実であると突きつけられた気がした。
しかし両親との会話で不安感は大分和らいだ。
と同時に自分自身の心の弱さを思い知らされた。
こんなにも、両親から愛情を注がれて大切に育てられ今までも愛され続かれいるというのに。
響は決意した。
これからは自分自身が、愛する家族や大切な人達を守れる強さを身につけて支えていきたいと。
そして、剣術とか勉学とかだけではない、どんな状況であろうと負けない強い心を持とうと。
それからの響は、今まで以上に稽古や勉学その他の事も積極的に全力で取り組んだ。
それまでのどこか遠慮がちだった所もなくなり、まさに文武両道であり容姿端麗な響は、更に学校内外で注目され人気も上がり続けた。
しかし、そんな響にも悩みはあった。将の事である。
あの日以来、将とはあまり話しが出来ないでいた。
最初はあの現象を見た後だから、そっとしておこうと思っていた。
だが将は稽古に取り組む時間も減り、自室にこもる事が増えた。
学校の成績は何とか今まで通りではあるが、どこか気が抜けた感じがしていた。
(やはり、私のせいでしょうか。このままでは将自身の為にも良くありません)
響はそう思い、毎朝稽古に誘い普段の生活においても何かと世話をやこうとした。
たが、稽古に限らず日常生活において助言をしても将には小言ととらえられ、よく口論をするようになってしまった。
(私は避けられているのでしょうか?・・・・)
響自信も自分の出生や異能力の事もあり、今まで通り将に接する事が出来ないでいた。
そして2年がたち現在に至る。
「姉さん?」
夕方帰宅中に響が考え事をしていた所、後ろから将に声をかけられた。
「将?」
響が将に気づいて振り返る。
通学路の途中にある、公園前の交差点で信号待ちをしていた。
「随分遅くまで残っていたんですね。図書室で勉強でもしていましたか?」
将が、少し顔をムッとさせて答える。
「違うよ。教室で考え事をしてて気づいたら、こんな時間だっただけ」
「そ、そうですか・・・・」
将の顔を見て、内心焦ってうつ向いてしまう響。
(いけない。またこんな言い方を)
「とにかく、早く帰ろう」
信号機が青になり将が先に、横断歩道を渡って行く。
その少し斜め後ろについていく響。
公園前を通りすぎようとした時、響が声をかける。
「将、少し寄り道をしませんか?」
「えっ、姉さん?どうしたの。いつもなら寄り道なんてしないのに」
「家に帰る前に、少しだけお話ししませんか?」
将をまっすぐ見つめて尋ねる響。
その様子に少し驚いた将だったが、
「わかったよ。少しだけ」
将が頷いて承諾すると、響はホッとした様子で微笑んで公園内に入っていった。
響がブランコに座ると、将も横のブランコに座った。
そして響がブランコの正面を見ながら話し出す。
「昔は良くここに来ましたね。懐かしいです」
「そうだね。時間があれば父さん達も一緒に」
茜も一緒にこの公園では良く遊んだ。将にも懐かしく楽しかった思い出だった。
躊躇いもあったが、響は思いきって尋ねた。
「将。私の事、避けていませんか?」
いきなり響に問われ驚く将。
「避けてなんて・・・」
響の方を見て否定しようとした将だったが、ふと最近の自分の姉に対する態度を振り返ると、はっきりと否定出来なかった。
将の方を見て響が更に尋ねる。
「私の事が、怖いですか?」
「そんなわけ・・・」
「怖い、ですか?」
将は響の顔を見て思い出した。
2年前、あの騒動の時に道場で見た怯えていた表情と同じだと。
「違うよ。姉さんを怖くて避けていたわけじゃない。
ただあんな事があって、姉さんにどう接すれば良いかわからなくなっていたんだ」
「・・・・」
響は黙って聞いていた。
「僕もあの後。母さんから少しだけ姉さんや母さんの事を聞いた。母さんと姉さんには異能力があることを。僕や茜には異能力があるかはまだわからないみたいだけどね」
「そうでしたか」
響も両親には将達にどこまで話したのかは聞いていなかった。
「あの時も僕は何も出来なかった。ただ見てただけで・・・・」
将がそう言うと、響が即否定した。
「そんなことありません。すぐに私の所に来てくれたじゃないですか」
あの状況を目の当たりにしても、将が躊躇せず自分を助けようと来てくれた。それは事実だ。
「側についていただけだよ。母さんみたいに助けたわけじゃない」
「いいえ、私は将に助けてもらいました。あの時側にいてくれて、とても心強かったです」
響にそう言われても、将は首を横にふった。
「僕が稽古に遅れなければ、あんな事にはならなかったかもしれないじゃないか。僕に感謝する事ないよ」
それを聞いた響は、初めて将の気持ちを知った。
実際にあの現象は響が発動させた。だがその原因は出生の事実だ。決して将のせいではない。
確かに将は約束の稽古には遅れて来た。だが時間通りに将が来たとしても状況は変わらなかっただろう。
いや異能を発動したその場に居合わせていたら、もっと大変な事態になっていたかもしれない。
「将、あなたのせいではありません。それはわかって下さい。何度でも言いますが、私は将に救われました」
そう言うと、響はブランコから立ち上がって将の背後に回った。
「姉さん・・・?」
将は響の方を向こうとした。その時、響が背後から将を抱きしめた。
「えっ!?ねっ、姉さん!?」
将が驚きのあまり硬直した。
「将に抱きしめられた時、すごく安心出来ました。ありがとう将」
「姉さん・・・」
「この2年ちゃんと話しが出来なくてごめんなさい。
でも、今日話しが出来て良かったです...」
「うん。僕こそごめん。ずっと避けて」
「いいえ、元々私が原因です。気にしなくて良いですから」
響が将から体を離して答える。
二人はようやく2年間の気持ちのすれ違いを解消出来た。
将も立ち上がり響に言う
「わかったよ、姉さん。さぁ早く帰らないと思ってたより時間が・・・」
将がそう言いかけた時、響は将の方とは真逆の方向を見ていた。
そして、将が聞いたことのない響の冷たく鋭い声を発した。
「そこの貴女、先ほどから私達を見ていたようですが、何かご用でしょうか?」
響が公園の入口近くに潜む人物に問う。しかしその人物は動かない。
響が一歩前進して更に尋ねる。
「出てこないのなら、此方から行きますが宜しいでしょうか?」
言葉は優しげだが、先ほど以上に冷たい殺気のある声を発する響。
将も潜む人物の方を向く。
すると、潜んでいた人物が姿を現した。
「フフッ、申し訳ありませんでした、響様。少し悪ふざけがすぎましたね」
170cm程の背丈、セミロングのブロンドヘア、青い瞳。そして黒いパンツスーツに身を包む人物は、二人に一礼した。
その人物を見て響と将は驚き、揃ってその人物の名前を叫んだ。
「「
「お久しぶりです。響様、将様。お迎えに上がりました」
英玲奈は優しげに微笑んで言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます