第50話「いきなりインポッシブル(前編)」
視界にて、揺れ震えるは嫁の
あれ? 勃たないぞ? 俺の
アルク・デイファニオン。心の短歌。
……いやいや、悠長に韻まで踏んで逃避している場合じゃないぞ?
これは一体どういうことだ?
つい先ほどまではあんなにも元気だったはずの俺の
具体的にはフィルナが股間を洗われているあの
なぜ? ホワイ?
嫁の裸だぞ?
あの恵まれし
問いただしてみるものの……
だが、確かに、そう……まごうことなき俺の
『アレは美しいけど、なんか違わね?』って。
実際、なんというか、うん、来るものは、無い……。
だが、頭では美しいしエロいと感じてはいるんだ。けど、どこか、そこはかとなく、なんか、性的に感じていない自分に驚いたんだよね。
なんといいますか……。
『俺のこの目に映る情報はあれをエロいと言っている……だが、俺の
って感じ?
きっしょ、なんで勃たないんだよォ……。
内なる魂の声こと
どうして俺の
あんなに
なぜだ? アレの一体どこに不満が?
何かが、足りてないとでも言うのか……?
はっ!? まさか!! 速さが足らない?
うそっ……俺の
いや、確かに俺の
などと、あまりの出来事に困惑し、お得意の超高速思考で意味不明な言葉を羅列させ脳内を駄作長文で埋め尽くすという現実逃避を行うことで、バ○アグラなど無いであろうこの異世界において、E○、治療、で検索できない事実に愕然とし、下手をすれば永遠に治らないかもしれない己が男の自信についての不安や恐怖など発生しうる猛烈な負の感情を打ち消しつつも、そんな戸惑いや困惑などは性的魅了スキルにより決して顔や態度に出すことなく、至って平静なイケメン涼し顔で虚空を見つめつつ内心では割とガッツリ動揺しまくっていると、
「む~、いつまでそんなのかぶってるんだよぉ」
気付けばそこに、フィルナの顔があった。
目の前……とは言っても身長差があるため、胸元というか、腹に近い辺りから見上げている訳なのだが。
その愛くるしい、柔らかそうな……いや実際に柔らかいことを充分なほどに確認済みなプニップニのほっぺたを、ぷく~っと可愛らしくふくらませながら、何やら俺を見つめている。
……もしかしたら、睨んでいるつもりなのかもしれない。
確かに、むぅ~っとその可愛らしい端正なお顔様がほんのりと歪んでいらっしゃる。
どうやら、ずいぶんとご機嫌斜めなご様子な訳だが、そんな愛くるしいつぶらな瞳でプンスコ凄まれた所で全然怖くない。
むしろ可愛いがすぎる。
というか可愛さしか無い。
可愛いしか勝たん。
そんな愛らしい嫁のご尊顔をじ~、っと。しばし見つめ続けること数瞬。
フィルナはおもむろに俺の顔へとひょいと手を伸ばし、何かをむしるように奪い取ると、ぺいっとそれを放り投げた。
ふぁさりと床に落ちたそれは……先ほどまでセルフィがはいていたあの桃色
つまり、それが意味する所とは……。
……俺は先ほどからアレを顔の上に張り付けたまま、セルフィの裸体を無言で眺め続けていたということに他ならない訳で。
あぁ、確かに。今までほのかに漂っていた芳醇でどこか切なくも甘い花のようなよい香りが無くなっている。
……うん。ていうかさ?
ちょっと性的魅了スキルさんさぁ。マジでちゃんと仕事してくれよぉ、頼むから。
いかに魅力SSSランクのイケメンだからって顔にパンツかぶったまま嫁の裸体を視姦し続けるとかさ? さすがにただのヤベー奴じゃん? 変態じゃん?
さすがに無いわ~。クソダサ変態侍だわ~……。
どこぞの
……なお、ルティエラは特に何も思うことも無いらしく無表情にこちらを眺めていらっしゃるご様子。
よく出来た嫁で実に痛み入る。まこと感謝にて候。
で、フィルナはあいも変わらずむす~っとした表情でプンスコ膨れていらっしゃる訳でして。
……もうね。超可愛い。
なんなんだ……この愛くるしい生き物は。
あんなクソダサ変態マスクだったこの俺を見限ることもなく、フィルナは俺に嫉妬という形で愛を示してくれているということな訳なのだから。
もうね。たまらなく愛おしくてたまらないっ!
いや、そもそもずっと愛おしかった訳だけど。
稀にネットとかで見るクソ女の嫉妬されたがるかまってちゃんの気持ちがほんのわずかにだがわかった気がする。
素直に嫉妬を表現してくれるフィルナ。
マジで可愛い。超天使。
もうね。なんていうかね。
素直に感情をぶつけてくれるフィルナのそういうとこ、すごくいいと思う。
可愛い。
ただただ可愛い。
超可愛い。
我ながら語彙力無さすぎとは思うものの、もう本当に可愛い以外の表現が思い浮かばないくらいに可愛い。
愛しさがあふれて止まらない。
切なさが乱れ斬る。
心強さも迸るってもんよ。
もうね、好きだ。超大好きだ。愛してる。叫びたいくらいだ。うおおおおお~っ!
などと沸き上がる情欲に心の内で一人打ち震えていると。
……おや?
おやおやおや?
ほんのりと、わずかにだが、確実に。
――我が
ごく小さなものではあるものの、我が股間の
こ、これは一体?
などと、そんな我が身のセンシティブな問題の解決の可能性に嬉しい悲鳴をあげそうになっている頃。
件の悩みの原因をこさえてくれやがった当のご本人様はといいますと。
「ヒャッハー、たまんねぇのー」
言葉とは裏腹に抑揚薄めの声で、こちらからでは見えないので想像でしかないのだが、恐らくいつもどおりの無表情のままであろう、白い浴室内で元気にはしゃぎまわるセルフィの後姿がそこにあるのだった。
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