第49話「いきなりパンツ・オン・ザ・フェイス(後編」



――何も無い鼠径部ってさ、どうしてこうも美しいのだろうね。



 男なら誰もが一度は思い浮かべたことのある哲学だ。


 学生時代、水泳の授業中に見たあの眩しい水着の食い込みに。

 放課後、はらりとめくれたスカートの下から覗いたスパッツの、パンツじゃないから恥ずかしくないもん、と夕日に照らされながら微笑む彼女の、あの煌く汗と共にピッチリと張り付いた、ツルツルした内股に。

 男には存在しない、ゆえにこそ。男にはあるはずのものが存在しないがこその、存在するはずの膨らみが無いという、異質なる、まさにそれが雌であるという証、その象徴。

 そんなものをむざむざと見せつけられてしまった思春期の、少年特有の、心の内よりじわりと溢れ来るあの甘い熱情パトス。そのロマンを。男であるならば誰しもが、皆、感じたことがあるはずなのだ。


 それは本能に刻まれし原始的根源欲求プログラム。魂の内よりあふれ出すその衝動パッションは、もはや宇宙の真理とも言うべき哲学の領域と言えよう。

 ゆえに俺は今、遠い目をしながら目の前に広げられている絶景を前に、感傷に浸ることしかできなかった。


 結論から言おう。


 そらした視線の先に待ち構えていたのは――空白の秘境おとめのアヴァロンだった。


 男にあるはずのものが無い。“無い”がゆえにそこに確かに存在する無の領域フラットゾーン


 そこには何も無い。


 確かに何も無い。そのはずなんだ。


 だが、“何も無い”という概念が、そこに事実として“存在している”のだ。


 “何も無い”がそこに“ある”という矛盾。


 これはもはや哲学といわざるをえまい。


 果樹園を避け、そらした視線の先にあったのは、美しき白の大地。

 それは、わずかな草原さえも許さぬ幼き無毛の柔肌だ。


 その終焉の三角地帯ラグナロクともいうべき秘境の先端には虚無おとめ刻印ラインともいうべき裂線クレバスが刻まれている。


 そう、女性の女性たる証。美しきライン一筋おとめだ。


 そこを下ればきっとあるのだ。隠されし黄金郷おとめのひみつが。


 いや、むしろ俺の黄金から迸るエキスおとこのみつを注ぎ込みたくなるほどに魅惑的な、黄金郷ニーヴェルング入り口ヴァルキューレたるわれめがががが……!!


 そうか。これが、一筋の平和○ンピースなのか! 秘境ラピ○タは本当にあったんだ!!


 おぉ、言い伝えはまことであった……!


 俺は今、ライン川のほとりでそんな神秘の光景を見下ろしているのだ……。


 こんなん秘境の奥地に眠る美少女のミイラなんぞよりもよっぽど探検隊を組むべき日曜マンデーなスペシャルだろ!


 目の前にさらけ出された魅了の三角島ありったけのゆめをかきあつめたおれのラ○テルをじっくりと眺めながら、俺は心の中で手を合わせて拝み、感謝の正拳突きを放つ気持ちで、とても素晴らしい物を見させて頂いたお礼に全力の拍手喝采スタンディングマスターオベーションするのであった。


 おっと、いけない。

 あまり長くガン見してしまうと童貞っぽくてみっともないと俺の性的魅了スキルこころのラフ○エルさんが警鐘を鳴らしていらっしゃる。

 名残惜しいができるだけ自然な形で視線を移動させねばだな。


 脳内体感時間で約3分。目の前に広がる美しい光景に意識が飛ばされていた気分だ。

 これが脳内加速時間中でなかったら変質者として俺は終わっていただろうおれでなきゃみのがされないね

 実際の時間は多分1秒も経過していない。凄いね、人体ビバ・チートスキル


 しかし恐ろしい。げに恐ろしきは女体の神秘ということか。

 まるで念能力か魔人能力だな。まさに危険地帯ダンゲロス


 だが恐ろしいのはそれだけじゃない。

 女体の神秘は隙を生じぬ三段構え。

 隙をさらせばペロリと地獄行きゴートゥーへヴンよ。


 俺は夢のお宝痴態グランド○インを抜けさらに下方へ視線をそらす。


 だが、まさかその先にあった光景もまた俺の心を狂わせることになるとは、その時の俺には想像できはしたがすでに術中。もはや回避不能の必中攻撃りょういきてんかいの内にあったのだった。



――そこには何よりも、ひときわ目を引くものが待ち構えていた。



 何がだって?


 禁断の果樹園エデン秘宝の領域アヴァロン、そこを下った先にあるものなんて決まっているじゃあないですか。


 そう、お太もも様だよ!!


 某ゲームやアニメで有名な、どこぞのアトリエ錬金術師様リスペクトなのかよ!


 何だよそのけしからん肉付きはっ! 眼に毒過ぎるでしょ!!


 ムッチリとこう、ムチッムチッ、ぷりっぷりとしたその柔らかそうな流線型のフォルムはまさに第三の性域。


 太い、いや太くない。といった、まさに神の定めし黄金比率とも言うべきベスト・オブ・ベストな按配あんばいの、まさに神がかりとも言うべき叡智の化身ドス・ケ・ヴェむっちり具合の太もも様なのだ。


 ビバ曲線美ッッ!


 ……尻と太ももが描くなでらかな曲線美ってさ。なんでこうも美しいんだろうね。罪深過ぎるよ。


 エロはいいねぇ。本能リリンが生み出した叡智の極みだよ。そうは思わないかい? チン児君。


 この美しい曲線美ラインはもはや大自然の生み出した最も原始プリミティブ芸術アートと言ってさしつかえないだろう。世界遺産に登録すべき至高の芸術だと思うんだ。至高にして至高。略してシコシコだ。


 なんてったってさ。言葉なんてもはやいらないんだよ。知識とかそんな小賢しいものなんざもはやいらないんだよ。言語化する仮定とか全部すっ飛ばしてさ、本能的に股ぐらへと直にグッと来る。確かなものがそこにはあるのだから。これはもはや間違いないよ。


 そして、太ももだけではないのだ。

 セルフィの真の魅力というのは、言うなればバランスにある。

 ウエストもしっかりとこう、さ? ほんのりくびれてて、出るとこ出てて引っ込む所はきちんと引っ込んでる。

 神采配の黄金バランスなんですわ。


 て、その上、“ある”ものが“無い”んだぜ……?


 凸である俺のための凹なんですよ。

 たまんないでしょ。こんなん。


 そんな具現化した芸術の化身がですよ。目の前にですよ? 全てをさらけ出してありのままの姿で見せつけてレリゴーしてくれてるんですよ?


 俺の股間の性異物ロンギヌスもチン黒率100パーセントですよ。


 ……と、なるはずだった。なるはずだったのだ。


 だけど、どうしたことだろう。


 目の前では豊穣の女神が化身とも言うべき芸術が一切を包み隠さずにフルフロンタルおれだけのセルフィを見せ付けてくれている。


 にも関わらずだ。


 なぜだろう。俺の相棒こと股間の暴れん棒将軍ジェネラル様は世を忍ぶカリの姿のまま未だ桜吹雪を見せつけてくれない。


 ……いや、桜吹雪は別の人か。まぁそんな些事はさておいて。


 いつもは元気すぎるくらいに夜の大立ち回りマツタケサンバ無双オーレしてくださるはずの上様が、今日は下町のチンさんのまま未だ沈黙を保ったままだ。チンさんだけにな。ってうっさいわ!


 オイオイオイ、一体どうしたってんだよ我が愚息マイサン。これじゃあまるで、赤髪のケモ耳好きツンデレヒロインに捨てられた元無職の某転生者みたいじゃないか。

 俺には生き別れの幼馴染エルフなんていないぞ? このまま一生『EDは病気ですルー○ウス』だなんて勘弁してくれよ?


 確かに今日は用事があるからそういう行為は控えたいと思っていた。思ってはいたんだ。だが、それとこれとでは話が違ってくるじゃないか。

 こうも不気味なまでに静まり返っているとどこか不安に感じてしまう訳で。


 動け! 動いてよ!


 俺は一向に進化プログレッシブしない股間の性なるチン聖旗ナイフに心で語りかける。


 ノらないなら帰れ。俺の心の内で某ダンボール暮らしのダメなグラサン親父が机の上で手を組んだあのポーズで囁きかける。


――が、ダメ……ッ!


 チン黒率0パーセント。パターン白。不能イ○ポです。


 どうしちゃったの、チン児君!


 そんな感じで、なぜか俺の自慢のティン☆ティン☆ポテトは省エネサイズマイクロなマジックのまま、まるで温まる気配を見せてくれない。


 マジでどうしたんだろう。ピクリともしない。反応せずだ。最低だなお前って。


 イレギュラーな自体ゆえか、無意識に冷静さを取り戻したのだろう。脳の加速状態が解けた。


――そして時は動き出す。


 我が子に気合を注入すべく、俺は今一度、眼前にある美しい光景を目に焼き付けるべく視線を向ける。

 エロい。間違いなく。目の前に広がっているのはどう考えたってR18完全ドピンクな光景だ。前世ちょっとまえまでの俺だったなら無手不触発射ノーハンド・スプラッシュ余裕、『まこと見事にて候』とばかりに栗の花が散ってくれていたはずなのだ。


 それなのに……。


 やがて、そんな俺の不躾な視線にセルフィが気づく。


 セルフィはそのまま視線を落し、チラリと俺の未だ膨らまぬ領域まるで・だめな・おとこのアレを一瞥する。

 そして数瞬の間の後、まっすぐ俺を見つめながらこう言った。


「……言わずもがな。わかってるの」


 結果論としてなのだが、目の前の痴態にも一切の心を乱されていない俺、という現実から、勝手に意図でも汲み取ってくれたのだろうか。


「くっちゃべってる暇があったらさっさと入る。でしょ?」


 なるほど。俺の頭の中ではこれほどの高速思考戦が繰り広げられていた訳だが、なんてことは無い。

 彼女からしてみれば先ほど俺が口にした言葉の延長線上、「そんなことはさておき――」に対する返答に過ぎない訳だ。


 セルフィは無表情のままにコクリと頷くと、恥ずかしげも無くその眩い芸術ミロといわんばかりのヴィーナスを見せつけながら、ゆっくりと湯浴み部屋へと歩み去って行くのだった。


 その姿は颯爽としていて、凛々しく、そして美しかった。


 そう、美しいはずなのだが……。


――なぜだろう、何かが足りない。


 そう、何かが足りていない。上手く言葉に表せないのだが、何かが違うのだ。


 そのせいなのだろう。俺の益荒男華麗勃マスカレイドは未だ小康レイピア状態を保ったまま獅痴性解放スターバーストの気配を見せようともしない。


 そんな宝塔レイディアント・トレジャーの行く末を危惧しながら俺は、雄雄しい態度で去り行くセルフィの後姿、主にその張りのある美しい桃尻ケツをただただ眺めるだけしかできないのだった。



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