第15話「いきなり再会!?」


 脱国から一週間が経った。


 当面の目標は金を貯めることだ。

 市民権を得るためには金が必要だからな。

 奴隷から脱する費用はゼロに等しいだろうが、教会への寄付金が割と高めなのだ。

 これ、出生メダルとか言うの無くすとわりと人生大変なんじゃないか?


 それはともかく、金を集めるためには仕事が必要だ。

 俺は戦闘奴隷。フィルナも戦う以外に得意な仕事は少ないらしい。

 となると当然、冒険者を始めることになるわけだけど……。


 ワイバーン戦で思い知った通り、俺には武器が無い。防具も無い。

 ついでに言うと、普通の服だと翼を出した瞬間に服が破損してしまう。

 そんな訳で、俺はなけなしの資金で専用の防具と武器を買ったのだ。


 当然、服も買った。

 半獣人仕様の尻尾穴付きズボンに、やはり半獣人用の翼用背中穴付きの上着だ。


 防具は動きやすさを重視して、肩とか肘とか膝、腕とか脚部など一部だけを守る局部鎧ピンポイントガードと胸当てのみだ。

 トゲトゲ付きの奴を勧められたけどイメージが悪いので却下した。何でも格闘戦時に武器としても使えるため、町の喧嘩自慢などにそこそこ人気があるらしい。流行ってたんだな。

 そして武器はブロードソード。ついでに回避用のバックラーと、これでいっぱしの冒険者って感じだな。


 で、ついにその時がやってきてしまった。


 ファルサリスから指名手配のチラシが届いたのだ。


 それは酒場の隅。依頼用の掲示板の端に張られていた。

 どうやら脳内イメージを直接出力印刷するマジックアイテムとかはないようで、手書きだった。

 そして、そこにはどう見ても俺とはかけ離れた、すごい凶悪な人相の化け物が描かれていた。


 ってか、宿屋にある姿見でざっと俺の姿を見た感じ、角と尻尾と翼が生えてるくらいで人間とたいして違いは無いのだ。

 なのになんかこのチラシ……肌の色が紫になってるんですけど。

 確かに角は生えてるっぽいし、魔族ではあるんだけどさ。こんな牙、生えてないんだけど。

 あと、紙代を浮かせるためだろうか。人に化ける可能性ありと追記されているだけで追加の人相とかは無い。

 これ、手ぇ抜きすぎじゃね?


 ちなみにフィルナはなんか少年兵っぽく描かれていた。

 ぶっちゃけ下手だ。

 本物はもっと可愛い。

 この絵を書いた奴は誰じゃー! とクレームを入れてやりたい気分である。

 もうね、出直してきやがれと抗議してやりたい気分だよ。


 とはいえ、まぁこれならもうしばらくは大丈夫だろう。


 そうこうしていると、何やら酒場の片隅が騒がしい。


「やめてください」

「いいじゃねぇか」

「俺らと一緒にいいことしようぜぇ」

「たっぷり楽しませてやるからよぉ」

「げっへっへっへぇ」


 どっかで聞いた声。

 ってか、どっちも聞き覚えのある声だ。


 声のする方を見てみると、またあのゴロツキトリオだ。

 ビールジョッキ片手にしょうこりもなく女性に絡んでいるようだった。

 ってか、他の奴らも止めろよなぁ。


「おいおい、またお前らか」


 俺が割って入ろうとすると――。


「あ……アルクさん」


 どこか見覚えのある声と三つ編みだと思ったら、ワイバーンの時の……。

 ディジナ村で会った確か、ルティエラさん。


「お、お久しぶりです」

「あぁ、久しぶり」

「っげぇ、あの時の!?」


 ゴロツキトリオが化け物を見るような目で俺を見る。

 いやまぁ、化け物みたいなもんかもしれないけどさ。


「ひ、ひぇぇ」

「あ、兄貴ぃ。こ、こいつぁ」

「ま、まさか兄貴のコレとは知らず、失礼をば」


 いきなり兄貴呼ばわりで揉み手状態で態度を激変させるゴロツキトリオ。


「お前らなぁ、ってか冒険者だったのか?」

「へ、へぇ」

「俺達ケチな用心棒から討伐採取なんでもござれの冒険者家業」

「棘付きケルベロスの名で活動させてもらっていやす」


 だっさい名前だなぁ。


「リーダーのガルモフっす」


 箒頭が頭を垂れる。


「ボンザっす」


 ふとっちょの奴が頭を垂れる。


「ドレムスっす」


 チビが同じく頭を垂れる。


「あ、アルクです」


 自己紹介を済ませる。


「で、冒険者ならなんであんなとこでカツアゲなんかやってたんだよ」

「カツアゲなんてとんでもねぇ。親切な道案内をしてやってただけで」

「案内代を要求してただけなんすよぉ」

「それをあの女がちょいと勘違いしちまっただけで」

「どうせ勝手に案内して後で金取るとか、そういうのだったんじゃないの?」

「ギクゥッ」

「そういうの、もうやめなよ? 冒険者全体のイメージが悪くなるから」

「へ、へぇ。今後は気をつけやす」

「で、今度はこんな人の多いとこでナンパ? 嫌がってたみたいだけど」

「そ、それは」

「冒険者仲間を探してたみたいなんで、俺らのパーティに入ってくれねぇかって誘ってたんですよ」

「本当?」


 じっとりとした目で睨む。すると、


「は、はい。確かに彼らは私を仲間に誘っていただけなのです」


 ルティエラちゃんが割って入ってくる。


「ただ、ちょっとパーティ名がダサかったのと……あまり好みのタイプじゃなかったのでお断りしようとしていただけなのです」


 わりとズバっと物を言うルティエラちゃん。


「ぐふぅっ」


 ほら、チンピラ三人衆も心にザックリ傷を負っている。


「そのわりにはいいこととか楽しませてやるって聞こえてたけど?」

「冒険者活動っていいことじゃないですかい?」

「金儲けたら楽しめるじゃないですかい」

「何も間違ったこたぁ言ってないでしょう?」


 あぁ、そういうことね。


「しかし、お前らみたいなのでも冒険者ってできるんだなぁ」

「そりゃあ俺らゴロツキみたいなナリしてやすし、実際ゴロツキみたいなもんでやしたけど」

「そこまで言うこたぁないでしょう」

「傷つきやすぜ」

「いや、見た目とかそういうんじゃなくて強さ的な?」


 あんなに弱いのに冒険者やっていけるんだなぁって、思ったのでつい口にしてしまった。


「く、そりゃあんた。それこそひでぇや。ありゃぁあんたが強すぎるだけだ」

「俺達だってここらじゃそれなりに名の知れたパーティなんですぜ?」

「ジャイアントベアとか、ビッグボアとか、Dランク程度の魔物ならタイマンでもいけるぜ?」

「ふ~ん。強いの?」


 ルティエラに聞いてみる。


「強いのかって。そりゃ強いです。私たちだって……ソロではちょっと無理だったくらいです」

「ふ~ん」


 少なくとも新米以上の実力者ではあったのか。


「ただ、それをアルクさんと比べるとなると……」

「役不足的な?」

「はい。アルクさんはワイバーンをソロで倒すほどのお方。普通の冒険者程度じゃ勝ち目なんてないです」

「わ、ワイバーンをソロ!?」

「化け物じゃねぇか」

「そりゃかなわねぇわけだ」


 恐れおののくゴロツキトリオ。

 そっか。あれ、そんなに凄いことだったんだ。

 今更ながら改めて思い知らされる。


「まぁ、アルクは全ステータスSランクだからね」


 上の階から準備が済んだのかフィルナが降りてこちらにやってくる。


「それは初耳。さすが私の勇者様」


 続いてセルフィも。


「ふぁっ!? 全ステータスSランク!?」


 トリオはその言葉に驚愕し手に持ったビールをドボドボと落としていた。もったいない。


「それは夜間のみ。昼間はAだよ」

「それでも充分化け物っすよ!?」


 口に含んでいたビールを噴出せんばかりの勢いで恐れおののくトリオ。

 ふむ、そんなに凄いもんなのか。


「まぁいいや。とりあえず席について何か食おう。ルティエラのことも聞きたいしさ」


 適当に空いているテーブルを選んで席に座り、ルティエラに着席をうながす。


「あ、俺らはお邪魔っすかね」

「あぁ、お前らも悪い奴じゃなかったみたいだし、一緒に食うか。おごりはせんけど」

「それじゃあ遠慮なく、同席させてもらうぜ兄貴」

「でもこいつら、私のこと犯そうとしてた」


 じっとりとした目でセルフィが棘付きケルベロスの面々を睨む・


「あ、あれは」


 バツの悪そうな顔をするゴロツキ。


「ちょ、ちょっと脅かしてやろうと思っただけで」

「本気でやらかしちゃおうって訳じゃなかったんだよぉ」

「どうだか」

「はぁ、もう二度と人様に迷惑かけるんじゃねぇぞ」

「へいっ」


 こうして、三人のゴロツキも交えてフィルナ、セルフィ、ルティエラ、俺の七人は席を並べるのだった。

 適当に注文をすませ、それからルティエラに尋ねる。


「で、どうしてこんなとこに?」


 ファルサリスにいたはずの彼女がどうしてこのミルトグリム連邦共和国にいるのか。

 あの後何があったのか。


「実は……」


 彼女は語り出した。この町へと来た経緯を。


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