第9話「いきなりバトル!!」


 改めて見ると本当にでかいな。一軒屋二階建てくらいの高さはあるんじゃないか?

 目の前に二本足で直立する巨体を見上げながら思う。

 これ本当にワイバーンか? 緑色してるけどレッサードラゴンの間違いとかじゃないよね?


 とりあえず、吐き出される火炎を無視して飛翔。少女を抱いたまま軽装戦士の下へ移動する。

 うわ、片腕が酷い事になってる。ってかもげてるじゃん。


「うぷっ」


 グロイけどここに放置する訳にもいかない。

 俺は意識を失い倒れ伏す軽戦士を片手で掴んで拾い上げる。


 再度ブレスが飛んでくるので飛翔して回避。二人は流石に重いな。重戦士の下へ連れて行く。

 重装戦士か。さすがにこいつは重そうだ。さすがに三人は無理だな。ってか、俺の腕は二本しかないんでね。


「今のうちに逃げて! 俺がなんとかするから」


 指示を出しつつ、少女と軽装戦士を降ろす。そして、息を吸い込みブレスの準備を行うワイバーンの下へと即座に飛翔して接敵する。

 こいつはどうやら近接状態の敵がいる場合、遠距離の敵めがけてブレスを吐くことができないみたいなんだよね。

 まぁ、目の前に敵がいるのに後方なんて相手にしてられんよな。

 だから、俺が三人を逃がすための囮になる。


 少し背後をチラ見してみると、重装戦士と少女が軽装戦士を背負って逃げ始めている姿が見えた。

 OK。後は、こいつをなんとかするだけだ。


「あ」


 そして今気付く重大な事案。しまった、手持ちの武器が無ぇ。

 やっべぇ。来る前にフィルナから剣とかなんか借りとけばよかった。

 嘆いてもしょうがない。吐き出されるブレスを回避しながら周囲を見渡す。

 さっき落としたのであろう。両手持ちの大剣が転がっているのが見える。ってか、もげた軽装戦士の片腕まである。


「うぶっ……」


 吐いてる暇は無い。こみ上げる嘔吐感を飲み込みながら大剣を拾い、未だそれを握り締めている軽戦士の片腕を払い捨てる。


 ある程度距離を保てば尻尾も噛み付きも来ないのか。

 吐き出される火炎ブレスを回避しつつ相手の動きを監察する。

 そして、拾って大剣を持ち、身構える。


 遠くにフィルナたちが見えて来た。

 やがて、合流したおっちゃんが軽装戦士を背負ってさらなる後方へと移動する。

 このまま戦闘射程範囲まで逃げてくれれば大丈夫そうかな?


 なら、やっちゃいますか。


 少し距離を詰めて白兵攻撃を行おうとすると、尻尾や噛み付きなどの物理攻撃を行ってくるワイバーン。

 なるほど。この間合いね。


 Sランクの感覚によるものだろうか。まるで危険領域が色塗りで区分されているかのように距離感が直感で理解できる。

 体の調子も良好だ。戦闘における体の使い方なんて始めてだというのに、まるで今まで使いこなしてきたかのようにその案配が良くわかる。なんというか、熟練の戦士みたいに動けるのだ。


 なるほどね。これがスキルシステムって奴なのか。

 フィルナがその身につけたのであろう戦闘における身体感覚がまるでオート操作のように実行され、さらに身体感覚としてもよく理解できる。

 こいつぁ便利だ。


 すでにワイバーンの思考からはすでに三人のことなど意識の外らしい。

 俺への対処に手一杯の様子で、俺へと噛み付き、尻尾による薙ぎ払い、火炎ブレスの三連撃を繰り返している。

 割とパターンゲーなんだな。


 大きく息を吸い込み、ブレスを吐き出すワイバーン。

 余裕で回避する俺。敏捷Sランクは伊達じゃない。

 さらに、回避と同時に飛び込んで腹への一撃を叩き込む。


「お?」


 さすがに通らないか。

 まるで、厚いゴムを叩いたような感触。

 さらに大岩か鉄の塊が中にでも入っているかのような叩き心地。


 一瞬、肉には沈み込むように入るのだ。

 だから多少へこみはするのだが、肝心の刃が刺さらない。

 多分、鱗が相当硬いんだろうな。


 さすが、竜族下位とはいえ亜竜と呼ばれる大トカゲ。まぁ、実際にこの世界におけるワイバーンのカテゴリは知らんのだけど。

 割と強い部類には入るのかもね。けど、俺には通用しない。


 流石にSランクの筋力だ。刃は通らずとも衝撃だけは通ったのか、多少はよろけるワイバーン君。

 キシャーと怒号をあげて睨んでくる。よほど痛かったのかな? 割と怒ってるようにも見える。


 貫き胴で近接距離に入った俺へと噛み付きにくるが、俺も急速旋回。飛行で回避する。


 そのまま少しばかり距離を取って、意識を少々集中する。

 斬鋼剣を発動したのだ。これなら、あの体でもいけるだろ。


 噛み付きも尻尾も届かない安全地帯にいる俺めがけ、さらにブレスを吐きかけるワイバーン。


「ワンパターンだねぇ」


 火炎を吐き出すべく伸びきった首の側面へと飛翔で急速移動。


 剣閃砲だと威力も強すぎるしまた生態系とか壊してもまずいので、流れ込む魔力を少量に抑え、範囲も縮小。

 剣閃砲は威力がでかすぎる上に消耗も激しすぎるからな。もっと放出する量を減らせないだろうかと、剣先に集中していく魔力を調整し、量を減らして、範囲を絞ってみたのだ。

 そんな感じで弱体化し、収束した剣閃砲をぶっ放つ。


「はっ!」


 虚空を裂く一文字斬り。その先端から迸る魔力というか闘気というか、なんかエネルギー的なもの。

 よし、これくらい低燃費にすれば連発も可能だろう。


 放たれた飛翔する刃は、ブレスを吐いた直後、刹那の硬直時間を見事に捕らえ、ワイバーンの首へと叩き込まれた。


 次の瞬間。スパッと。もう本当にものの見事にスパって擬音が見えるくらいにすんなりと、ワイバーンの首を両断したのだった。


 いや、あの大剣の一撃をも軽く跳ね返す体をですよ。

 その強固な鱗を豆腐か何かのように切り裂き、飛翔したオーラの斬撃波動はなんかそのまま飛び去り、大地をザックリと抉り裂く。


 いやぁ、魔力抑えててよかったよ。

 普通にぶちこんでたら大地が砕けてまた地形おかしくしちゃったんじゃないかな?


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