第2話「いきなり召喚!!」



 そんな訳で俺は中世ヨーロピアンな城だか砦だかにいる。

 石造りなので床が冷たい。


 窓らしき所からはオレンジ色の光が差し込んでいる。

 夕日かな?


「ゾルサス。どうだ」


 いかにも王様然とした格好の老人が、その隣にいる偉そうな格好の男に声をかける。


「はい、ただいま」


 ゾルサスと呼ばれた宰相じみた格好のおっさんが俺らを眺める。


「おぉ……」


 そして感嘆の声をあげる。


「んだてめぇ……」


 俺の他に転移させられたらしいブレザー姿の男女四人。

 その内の一人が不満げな声をあげる。


 あいつは……。


 黒髪をオールバック気味に逆立てた大柄な男。

 確か隣のクラスの……。


黒峰勇地くろみねゆうじ。クラスは勇者。剛力と思考加速、回避上昇Bとまさに白兵型。剛力も合わさり筋力ランクAプラス! 人類の最高峰レベル! これは逸材ですぞ!!」

「あぁ? 勇者だぁ?」


 勇者どころか教師連中としょっちゅう揉めてるような超不良なんですけど、そいつ。


「どれ、見せてみよ」


 王様らしき男がゾルサスとやらの隣に立つ。

 ゾルサスの手の前にはあの半透明のプレート――たぶんステータス画面らしきもの――が浮かんでいる。


「ほぅ、これは素晴らしい」


 口にすると王様らしき……って続けるのも面倒だな。暫定王はその内容を発表する。



黒峰勇地


種族:人間

クラス:勇者

Lv:20

称号:抗う者

STR:A+

AGL:A

VIT:A

SEN:B+

INT:D

MEN:C

LUC:C

APP:B

MAG:C


種族スキル

なし


スキル

剛力

思考加速

回避上昇B

白兵戦闘A


レジェンドスキル

絶対破壊


ユニークスキル

抗う者



「ゾルサス。抗う者とはなんだ」

「ユニークスキルは既存のスキルの複合体。その数は多岐に渡りますゆえ、我にもわからぬものがほとんどにございます」

「そうか……ではレジェンドスキルとはいかに」

「はっ。レジェンドスキルとはまさに伝説級の超レアスキル! レアスキルのさらに高位のスキルにございます」

「ふむ、では絶対破壊ラグナロクとはいかに」

「その名の通りあらゆるものを破壊するスキルにございます」

「あらゆるものを破壊とな」

「はい。いかなる結界や防御、抵抗を無視して蹂躙する無双の力を保有する事を示します」

「なるほどのぅ」

「何納得してやがる!!」


 黒峰は一瞬で王らへと近づくと、半透明の壁めがけて拳で殴りかかった。


 きっと最高峰の防御壁とかでさぞや自信作だったのだろう。

 俺たちを囲むように張られていた半透明の壁。

 だがその結界は、黒峰の拳を一瞬さえも止める事叶わず、スルリと振りぬかれた拳の後には、まるで飴細工の如く、粉々に粉砕された綺麗な無数の欠片が宙を飛び交う始末。


 キラキラと舞いながら消滅していく結界だったものの破片を呆然と眺めながら、王様達は腰を抜かしてへたり込んだ。


「こっちは納得いってねぇんだよ。どういう事か詳しく説明してもらおうか」


 指をベキボキ鳴らしながら恫喝する黒峰。


「は、はいぃぃ」


 情けない声をあげながら王達は現状を説明するのだった。



 王達いわく、彼らはここファルサリス帝国の王と宰相で、俺達は世界統一戦争のため、英雄として召喚されたのだとか。

 そしてここはエルデフィアと呼ばれる世界で、ルミナスフェリアと呼ばれる大陸にあたるのだそうな。

 古代魔法文明時代は他の大陸とも国交があったそうだが、文明が滅ぶと共に海の魔物に対抗できなくなり、結果、他の大陸が今ではどうなっているか、もはやわからないという。

 そして彼らはそんな古代魔法文明時代の文献を集め、異世界から英雄を呼び出す秘術を蘇らせ、実行したのだそうな。


「で、どうしたら元の世界に帰れるんだ?」

「帰還の方法はまだ研究中でして……」


 ゾルサスがへこへこと媚びへつらうように説明を続ける。


「ふざけんな!」

「ひぃぃ……」

「今すぐ戻せ!!」


 あの半透明の壁に相当自信を持っていたのだろう。

 その証拠に、王らを守る兵士はここには一人としていない。

 迂闊にも過ぎると思うのだが、まぁ結界を軽く破壊する輩が召喚されるなんて想像もしてなかったんだろうね。

 もしかしたら極秘機密とかで宰相以外には知らされて無いとかなのかもしれない。

 この召喚の術自体、宰相が王をたぶらかせて推し進めていたものとかだったりさえするのかもしれない。

 まぁ、彼らにしかそれはわからないことなんだけど。

 それはともかく。彼らを守るものが何もなくなった時点で彼らは素直にならざるをえない訳で。

 その状態で嘘を言っても仕方が無い。誰だって命は惜しいはずだから。

 って事は、元の世界に戻す方法が今は無い、というのが事実なんだろう。


 なので、


「まぁ、今は帰せないって言ってるんだから。無理強いはやめようよ」


 間に立ってイメージアップを計る。

 こういうのは第一印象が大切だからね。

 召喚主にいいとこ見せて恩を売っておくのも悪くは無い選択のはずだ。


 ところで、さっき喋った時にものすっごい違和感を感じたんだけどさ。


 俺、声変わってね?

 なんか完全に別人の声になってるんですけど!?


 なんというビフォアアフター。

 あんなにもモブモブしていたゲロカスクソボイスが、超人気声優も格の違いに頭を垂れる程の透き通るようなイケボに大変身。

 あぁ、そっか……魅力特化だから声まで補正かかってるのかなぁ? これ。

 そんな風に自分の声に戸惑う俺に対し、


「なんだぁてめぇ」


 不良特有のメンチの切り方で凄む黒峰。


 うっわ、怖ぇ。


 いかに不死身の能力を持っている……はず、とはいえ怖いものは怖い。


「いや、その。無理だって言ってる人に無理強いしても何も変わらないんじゃないかなぁって……」


 めっちゃ近くまで顔を近づけて凄む黒峰を落ち着けるべく対話を試みる。


「あ? 舐めてんのか? お?」


 ダメだ。対話が通じねぇ!

 あたふたする俺の前に立ちふさがるように、というか間に割り込むように現れる影。

 それは、一緒に召喚された四人の内の一人、小柄な美少女、蓮水はすみゆずだった。


「まぁまぁ黒っち。彼の言う通りだよ。こういう時は冷静に状況を見極めて最適な行動を取らないと、最悪の場合、ロストだよ」

「黒っち言うな。ってかロストってなんだよ」

「ゲームオーバーってこと。クトゥルフ的に」

「またゲームの話かよ。お前、そういうの好きだよなぁ」

「ふふん、ゆず的にはTRPGとかでこういう状況のシュミレーションはバッチリだからね。まぁ任せとき」

「本当に大丈夫かぁ……?」


 黒峰はどうやら蓮水の知り合いか何からしい。

 ちなみに蓮水ゆずという少女を一言で表すなら、オタサーの姫だ。

 ゲーム研究会。トレーディングカードゲームからボードゲーム、TRPGにMMORPGまで。様々なゲームを活動内容としている、よく正式な部活動として認められたよなぁって感じの文科系倶楽部。そこの部長様だ。


 長いツインテールに小柄でまるで子供のような体躯、そして人形のように整った顔もあって、校内でも圧倒的人気を誇っている。

 俺の憧れであるマドンナ、天王寺桜とその人気を学内で二分しているといっても過言ではない程の超絶美少女だ。


「で、王ちん達の言うとおりにすれば元の世界に帰してもらえるの?」

「そ、それはもちろん」

「約束しよう。この王の誇りにかけて」

「誇りにかけるくらいなら、そもそも無関係の異世界人に助けなんざ求めてんじゃねぇ」

「まぁまぁ、落ち着け黒ちん」

「だから、黒ちん言うなっ」


 毒吐く黒峰を蓮水がなだめつつ。


「ちなみに。ゆずのステータスはどんなもん?」

「は、はい。少々お待ちくださいませ」


 鑑定の能力を持つらしいゾルサスが蓮水をじーっと眺める。

 まるで視姦してるおっさんの構図である。


 で、ゾルサスさんいわく。



蓮水ゆず

種族:人間

クラス:魔導王

Lv:19

称号:なし

STR:D

AGL:D

VIT:E

SEN:A

INT:S

MEN:S

LUC:D

APP:A+

MAG:S


種族スキル

なし


スキル

精神修練

気功

おまじないC

占術C

家事C


レジェンドスキル

絶対防御



「能力的には魔術師見習いといった所ですが、才能としては逸材ですな。何より絶対防御エリュシオン……これが素晴らしい」

「名前的に、○Tフィールド的な感じ?」

「それが何かは存じ上げませぬが、まぁ似たようなもののようですな」


 ちなみに、異世界に来たのにどうして会話が成立してるのか、についてだが。

 召喚された対象には自動的に翻訳魔法みたいなものが永続的にかかるように設定されているのだろう。

 なので王達が喋ってる言葉は異世界の言語、こちらが喋っている言語は日本語なのだが、なぜか互いに口にしている意味がわかるという状態になっている。

 言葉ではなく脳がなぜかその言葉の意味を理解するというか、そんな奇妙な感じだ。

 A○フィールドというあきらかにこちらには存在しないはずの言語が理解されたのもきっとこれが理由なのだろう。


 ちなみに俺はこの世界の生物として転生しているからなのか、こちらの言葉もなんか喋れるっぽい。

 けど、異世界人のふりをするためにあえて今は日本語で喋っていたりする。



絶対防御エリュシオンとは、あらゆる攻撃を無効化する最強の盾を生成する能力にございます」

「ほぇ~。黒っちのとどっちが強いかな」

「試してみるか?」

「やめてくだされっ」

「ふっふっふ。これはよい。全てを破壊する剣とあらゆる災厄から守る盾、究極の二人が手に入ってしまったという訳じゃな!」

「そういうことにございます!」

「別に俺はまだお前らを手伝うなんて言ってねぇんだが?」

「まぁまぁ黒っち」

「だから黒っち言うな!」


 仲がよかったんだなぁ。この二人。

 三年も学校に通っていて初めて知ったよ。


「それで、この茶番はいつまで続くんだ?」


 今までずっと黙して語らずを貫いてきた月宮望つきみやのぞむが口を開くなり苦言を呈した。

 月宮望ってのは召喚された四人の中の一人で、まぁハンサムで眼鏡の似合うイケメンだ。サラサラヘアーの優等生。いわばエリート生徒会長様だ。


「で、ドッキリの看板を持っている奴はどこに隠れているんだ? そこか?」


 背後の扉を睨みつつイライラしていらっしゃるご様子。

 なるほど、黙っていたのはドッキリに対して反応したくなかったからなのね。

 ドッキリじゃないのに。


「ド、ドッキリとは?」


 ほら、ゾルサスさんも王様もなんのこっちゃって顔してるよ。


「望みん。これドッキリじゃないと思うよ」

「望みん言うなっ」


 蓮水の言葉に律儀につっこむ月宮。

 付き合いづらそうな奴と思ってたが案外おもろい奴なのか?

 それとも蓮水が人と仲良くなる才能に長けているのだろうか。


「もしかして、本当に異世界転移……なのでしょうか」


 今まで呆然としたり周囲をキョロキョロしたりを繰り返していた天王寺さんがようやくその麗しきお口をお開きあそばれる。


「私もその、多少はそういった小説を嗜みますので……でも、本当に?」


 現実を受け止めきれずにおられるご様子。

 そりゃあね。フィクションがいきなり現実になったらアニメじゃないっって叫びたくもなりますやね。


「まぁ、現実っぽいから受け入れるしかないと思うよ。とりあえず桜ちんも望みんも、鑑定受けてみなよ」

「望みん言うなっ」

「桜ちん、可愛らしいですねっ」


 なんか四人が仲良くなり始めてる。

 俺、はぶられてる?


 まぁそれはともかくとして、こうして明かされた彼らの能力は――。



月宮望

種族:人間

クラス:覇王

Lv:19

称号:預言者

STR:C

AGL:A

VIT:C

SEN:A+

INT:A

MEN:A

LUC:C

APP:A

MAG:S


種族スキル

なし


スキル

思考加速

話術A

料理A


ユニークスキル

預言者


レジェンドスキル

無限魔力



「魔法剣士の才能がおありのようで。何より無限魔力ニブルヘイムとは……」

「それはどんなものなのだ? ゾルサス」

「はい、魔術師ならば誰もが憧れるスキルにございます。これさえあればいかなる極大究極魔術も思うがままに……」

「ほぉ」

「戦略級魔術が使い放題にございます」

「それは凄い!」

「まぁ、まずは魔法を習得する所からになりましょうが、これはまた……まさに逸材でございます」


 べた褒めだねぇ。

 ま、俺には叶わないだろうけどね。


 で、天王寺さんの鑑定結果だが……。



天王寺桜

種族:人間

クラス:司教

Lv:19

称号:なし

STR:E

AGL:E

VIT:D

SEN:C

INT:A+

MEN:A

LUC:A

APP:S

MAG:S


種族スキル

なし


スキル

神聖魔法A

料理B

裁縫C

家事C

舞踏B



レジェンドスキル

絶対回復



絶対回復アヴァロン……まさかこれは伝説の」

「知っておるのかゾルサスよ」

「はい。あらゆる事象を治癒しうる絶対の復元能力。回復魔法にはいくつかの種類がございますことは王も御存知の事とは思われますが」

「うむ」

「肉体本来の回復力を早めるものが低位の回復魔法にございます。次に体を構成しているものを操作して元に戻す復元が高位回復魔法にございます」

「知っておる」

「神聖魔法になると事象の書き換えにより傷を負った事実をかき消す事で治療するとされているのですが、なぜか死者を生き返らせる事は叶いませぬ」

「うむ。別途で超高位神聖魔法の中に死者蘇生があるとの噂はあれど、この目に見た事も歴史に残された資料も眉唾物の伝承以外には存在せぬらしいな」

「はい、ではこの絶対回復アヴァロンはいかなるものか……それは、時間の巻き戻しにございます」

「時間の巻き戻しとな!?」

「はい。ゆえに生物非生物問わずあらゆる存在を最適だった状態へと復元する。それはいわば死者さえも蘇生する。まさに絶対の回復を約束された伝説最上級のスキルにございます」

「ほぉ……」

「わ、私、もしかして……聖女さま?」

「まさにその通りでございます!」

「おぉ、聖女よ……!!」


 ゾルサスさんと王様、なんかひれ伏しちゃってるし。

 桜さんもなんかふんぞり返って嬉しそうだ。可愛い。


「これで、念願の世界統一に向けて……確実な一手となりましょうぞ!」

「うむ、うむ、よくぞやってくれた! ゾルサス!!」


 なんか盛り上がっていらっしゃるお二人さん。


「なんか知らねぇけど、まだ俺はやるって言ってねぇからな」

「ゆず的には面白そう。人殺しは嫌だけど」

「僕はさっさと帰りたいね。受験勉強で忙しいってのに。こんな所で遊んでる暇は無いんだ」

「私はぁ~……困ってる人を助ける聖女様ならぁ、ちょっとやってみてもいいかもぉ?」


 四者四様のリアクションを見せる中。


「で、えっと……俺は?」

 

尋ねた瞬間、ゾルサスが残念そうな目で俺を睨んで来るのだった。



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  オマケ

  ステータスの意味


 STR:筋力(肉体的な強さ。高ランクであるほどパワーがやばい)

 AGL:敏捷(素早さや器用さ。高ランクほど素早くこなせる)

 VIT:体力(タフネスや肉体的頑強度。高いほど疲れが出にくく死にづらい)

 SEN:感覚(感知力や察知力。高ランクほど五感や第六感が優れている)

 INT:知力(頭の回転の速さ。高ランクほど頭がいい)

 MEN:精神(メンタルの強さ。魔力にもよるが高ランクほど状態異常の抵抗力があがる)

 LUC:幸運(運のよさ。SSSになると異能生存体レベルでご都合主義が発生するようになる)

 APP:魅力(見た目の美しさをランク付けしたもの。ぶっちゃけ見ればわかる)

 MAG:魔力(体内の魔素保有量。ルミナスフェリアでは魔法の強さなどに関係してくる)


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