第2話 戦う少女
祖母とハンバーグを食べつつ、明日はどうしようか考えることにする。
今日と同じように見かけたら追いかけるか考えるが、これ以上するとストーカーのようになってしまうので普通に話しかけようと決めた。
明日も追いかけたら完璧にストーカーになっちまうからな。そうならないように偶然を装うように話しかけないと。俺なら出来るはずだ。ちゃんと偶然を装うぞ。
明日実行することを考え終えると、気が付けば食べ終えていた。
「ご馳走様。部屋でゆっくりしてるね」
「そうかい。明日も学校なんでしょ? 楽しんでね」
祖母にありがとうと言い、リビングを出て階段を上って左手側にある自室に入る。
それほど大きくはない自室であるが、ベットに机に棚と必要なものは揃えている快適な部屋だ。
結構家具が増えたな。漫画本と雑誌にルームフレグランスとか色々最近買ってるから仕方ないか。とりあえず今は明日のことを考えつつ寛ぐことにしよう。
出雲はベットに寝転がりながら明日のシミュレーションを始めことにした。
「明日声をかけて今日のことを聞けたら聞こうかな。なんて言われるかわからないから不安だけど、商店街での様子とか聞けたらいいな」
明日聞くことを決めると早めに眠りにつくことにした。
未だに慣れない学生生活や美桜を追いかけたことにより疲れていたからであろうか、落ちるように眠ってしまう。
そして翌日の放課後。朝から聞こうとしても話しかけるタイミングが掴めない状況が続いていた。普段は誰とも喋らないという認識であったが、今日に限ってはクラスメイトの女子達と仲良く話している姿がそこにある。
不思議だ……いつもは静かに本を読んだり外を見ているだけなのに、今日に限っては笑顔で楽しそうに談笑してるよ。どっちが本当の夕凪さんなんだ?
じっと見つめるように楽しそうに話している夕凪美桜を観察することにした。
「昨日は誰とも喋らずに静かにしていたと思ったら、今日は楽しそうに話している……こっちの笑顔で話している夕凪さんの方が可愛いじゃん」
そう言えば楽しく話している夕凪さんは前にも見たな……静かな日もあれば突然社交的にクラスメイトと話している時もあったはず……本当の夕凪さんはどっちだ?
不思議だと楽しそうに話している美桜を見ていると、ポケットからスマートフォンを取り出して何やら謝っているように見える。何を謝っているんだろうと見ていると、これで帰るねという声が耳に入ってきた。
「ちょっと用事があって、これでごめんね!」
「大丈夫。また明日ねー」
「ありがとう!」
謝りながら通学鞄を持って教室を出て行った美桜を見て、動くかと静かに呟く。
さて、やっと動いたけどどう声をかけようか。急にかけたらおかしいから、決めたように偶然を装うことにするか。
「偶然を装うようにしないと、変に思われたら終わりだからな」
後を距離を開けて追いかけると、昨日とは違う明るく活発な美桜は那岐商店街を楽しそうに歩いている。
コロッケや串揚げを美味しそうに頬張りつつ、左右にある商店を物色しながら奥へと歩いていくようだ。
「昨日とは違って無邪気な感じだ。どれが本当の夕凪美桜なんだ? 頭が混乱しちまうよ」
そんなことを考えながら後を付けて話しかける機会を伺っていると、今日は駅を挟んで反対側にある会社街に歩いて行くように見える。那岐駅の反対側はビルが立ち並ぶ会社街となっており、数多のサラリーマン達が働いている。
今日は駅の反対側に行くのか。あっちは会社街で遊ぶような場所はないはずだけど、何か用事でもあるのか?
どこに行くんだと電柱などに隠れながら後を付ける。やはりどう見てもストーカーに見えてしまうが、今は考えないことにしていた。
「今日はこっち側か。ただ散策をしているだけなのかな?」
一定の距離を保ちながら追いかけると、突然目線の先にいる美桜の姿が消えた。
それは掻き消えるというよりも姿がそこから消失したという方が正しい。姿が見えなくなると駆け足で消えた場所まで移動をした。
「な、何があったんだ!? 姿が消えた!? 昨日のもこれだったのか!?」
目の前で起きたことが理解出来ずにいると、何やら金属音が聞こえてくることに気が付いた。
「こんな場所で金属音? 静かな場所なのに? それに姿が消えたのも気になる……」
姿を消した美桜や聞こえる金属音のことを考えながら一歩前に進むと、顔に何やら柔らかいものが当たった。
「なんだこれ? 柔らかい膜みたい? 何回突いても弾き返してくる……不思議だな」
目の前にある薄い見えない膜の耳を当ててみると、その内側から金属音が聞こえてくることが分かった。どのようにすればこの膜の内側に行けるか考えるが一向に答えは出ない。
「どうすれば行けるんだろう。体当たりをすれば入れるかな?」
体当たりをしてはいるか。それで中に入れれば御の字だ。
何度か突いてみるが弾かれる一方で埒が明かないのでやってみるしかないと決心をし、膜に向かって体当たりをする。
「この! この! くそ! 何度やっても弾かれる!」
転びそうになりながらも何度か体当たりをすると、次第に柔らかい膜に体を押し込むことが出来るようになってきていた。
「もう少しだ! もう少しで膜の内側に行ける!」
体全体に力を入れて突進をすると、体がめり込んでいく感覚があった。
ここでさらに押し込もうと両足に力を入れると柔らかい膜を突き破って中に入ることに成功をし、内側の地面に倒れてしまった。
「あぐぅ……ここが膜の中なのか?」
周囲の景色は会社街のままで何も変わっていないように思えるが、唯一違うのは目の前で夕凪美桜が刀を手にして戦っている姿がそこにあったことである。
「ゆ、夕凪美桜!? どうして刀で戦ってるの!?」
目線の先には刀を手にして右頬から血を流している美桜の姿と額の左右から赤黒い鋭く短い角を生やし、肌が赤い筋骨隆々な男性が刀を手にして斬りかかっている姿がそこにあった。
「ゆ、夕凪さん! これはどういうことなの!? どうして戦ってるの!?」
目の前で起きている現実が理解出来ないために戦っている美桜に話しかけようとするが、その声は届かない。
人間とは思えない角を生やした男性と戦うことに集中をしているようで、その顔はとても真剣な表情をしているように見える。
「声が届いていないのか……それにしても凄い速さで斬り合ってる……ていうか、どうして戦っているんだ?」
倒れた際に打った肘を擦りながら立ち上がると、視線の端に両手を握って頑張ってと応援をしているもう一人の美桜の姿が見えた。
「夕凪さんが2人!? どういうこと!?」
応援をしているもう1人の美桜に近づくと、何でここに一般人がいるのと驚かれてしまった。
「どうしてここに一般人がいるの!? どうやって入ったのよ!」
「どうしてって、夕凪さんを追って来ただけど、急に消えたら目の前に柔らかい膜があって体当たりをしたらここに入れたんだ!」
「本当ですか!? 人が近寄れないようにもなっているのに、どうして入れたんだろう?」
もう一人の美桜が人間は近寄れないはずなのにと一人で呟いている声が聞こえる。
人間が近寄れないとはどういう意味なのだろうかと出雲も考えてしまうが、そもそも近寄れなくすることなど出来るのだろうか?
「人を近寄れなくするなんて出来るのか? そんなこと不可能だと思うけど」
「魔法があれば出来るよ? 知らないの?」
魔法ってどういうこと!? 魔法なんてあるわけないのに。何を言っているんだ?
魔法なんてあるわけがないと考えていると、奥の方から悲鳴が聞こえてきた。
「姫様!? ほら早く出ていって! 姫様の邪魔になる!」
「姫様って、戦っている夕凪さんの方?」
「そうよ! ここに一般人がいると邪魔だから早く出ていって!」
もう1人の美桜に背中を押されて柔らかい膜に押し付けられてしまうが、最初と同じく弾かれてしまって外に出ることはできない。
何度かもう1人の美桜に強引に押されていると、姫様と呼ばれた美桜が悲鳴を上げて自身の横に吹き飛ばされてしまっていた。
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