学園ヴァンパイア

天草 仙

ヴァンパイア

ついさっき僕は逃げるように家を飛び出した。理由は簡単。何もかもがいやになったからだ。デキ婚して姑に嫌味を言われるからといって僕を逆恨みしている母。全てにおいて無関心な父。出来が良い妹。そして何より能力がなく出来損ないの自分。そんな全てがいやになり、僕は今学校の屋上にきていた。普通自殺するなら成功率的に人目につかない所の方が良いと思うが学校で自殺しようとしているあたりやはり僕も母に遅れをとらない程には卑しい男なのだろう。だが、今回は本気で死ぬつもりだ。そう改めて僕は決意し唾を飲み込む。自殺さえすれば全て辛いことから解放されるのだ。憎しみ、悲しみ、愛。そんな煩わしい感情ともおさらばできる。深呼吸して屋上のフェンスの網の間に足と手をかけ登っているとまるで母の僕に対する態度のように冷たい風が体を覆った。だんだんと寒気が出てきたがこれが風によるものなのか、恐怖によるものなのかはわからない。フェンスを登る手を止めていると嘲笑うかのように美しくそしてどこか狂気じみた少女の笑声が背後から聞こえた。

「君死ぬのー?」

と背後を振り返るとどこか見下しているような、そして呆れたような口調で紫髪で目鼻立ちが整っている美少女が僕にそう呟いた。

「はい。とめないでくださいね」

せっかく決意し、行動に移そうとしているので妨害されないように僕がそう釘を刺すと

「とめないわよー...だって今から死ぬんでしょ?そんな面白い場面見ない訳にはいかないもの」

と僕の想像に反する一般常識から程遠い発言を、彼女が美人に似合わず不気味な笑みを浮べ呟いた。それから少し間があき

「と言いたい所だけどあなたには生きてもらうから」

と彼女が不気味な笑みを浮かべながら意味深などこか含みのある物言いをした瞬間、視界がだんだんと漆黒に染まっていき僕は闇へとすっーと堕ちていくのだった。


あれから僕はおそらく深夜であろう時間帯に目覚めた。

長い時間久しぶりに眠ったせいか不思議と身体が軽く今なら何でも出来そうな気がした。

あのおかしな少女は時間帯的にいなくなっていたがもう日もくれているのだから当たり前だろう。一瞬少女が物凄いスピードで近づいてきた気がしたが、流石にヴァンパイアでもあのスピードは出せないと思うので疲れからくる幻覚だろう。でもまさか倒れるとは思っていなかったなあと思いながら僕は重い体を起き上がらせ屋上から出たのだった。なぜか不思議ともう自殺願望はなくなっていた。自分よりおかしな人間がいたからなのか、単に久しぶりに長時間眠ることでストレス解消出来たのかはわからないがある意味良かったのかもしれない。


あれから僕はコンビニにより、それから家に帰り昔大好きだったおばあちゃんに教わったレシピでオムライスを作った。このオムライスを作っている時間と食べている時間はまるでおばあちゃんが蘇りそばにいてくれているような感じがして好きだ。

出来上がったオムライスに昔おばあちゃんが描いてくれたように星形を書くと本当に幸せだった過去に戻れた気がした。

「いただきます!」

と僕は今日の衝動的な負の感情や倒れた事を忘れるためにオムライスを口へと運ぶと昔おばあちゃんが作ってくれたどこか懐かしい馴染みの味が口いっぱいに広がった。

「ッッッ」

だがその後からがおかしかった。食べ物を飲み込み体内へと入っていった瞬間全身が焼けるように熱いのだ。

「死ぬ死ぬ死ぬ」

本当にやばい。母が何か毒でも盛ったのだろうか?だが食材や料理を作ったのは僕だし食器に毒を盛るにしても妹が触れる可能性があるのでそれはないだろう。

僕があまりの苦しさから床に這いつくばり悶えているといつも見ているテレビ番組の音声が聞こえてきた。

「速報が入りました!災級ヴァンパイアが東京の新宿区に出没している模様です。現地にいる皆さんは現場の指示にしたがって早急に避難してください!」

「いやーまたかー...こりゃ怖いねー」

「ちなみにヴァンパイアは人間社会に溶け込んでいる場合も多いので、以下の方法で見分けてください。・人間の食物を食べたら臓器が焼けるか・身体能力や回復力が異常に高くないか?・吸血していないか・元素支配と呼ばれる魔法のような物を使っていないか。最後に現場の皆さん。健闘を祈ります。」

僕は苦しみを紛らわす為にテレビの音声を聞いていたが1つだけ気になった。胃が焼ける?この現象と今の僕の状態が噛み合っているのではないか?と言うことだ。だが、僕は確かに人間のはずなのに可能性としてはヴァンパイアが元素支配と呼ばれる魔法のような物を使うと言うことから僕は元素支配の被害にあっているのではないか?と言うことだ。まあヴァンパイアについてはまだ解明されていない事も多いので何とも言えないのだが。

それから僕は苦しみに耐えながら何とか眠りについた。


朝目覚めるとすっかり痛みはなくなっていた。痛みの原因について考えたい所だがもう学校に登校しないといけない時間なので僕は恐怖感もあり朝食を取らず足早に学校へと向かうのだった。


高校が新宿にあるので少し怯えながら歩いていると普段は人通りが多く賑わっている街がガラガラな事に気づいた。そんな少し寂しげな街を歩いていると

「ピピピピピ」

と慌ただしく警報アラームが鳴り出した。これは周囲10キロ以内にヴァンパイアがいるとなる警報なので今僕の近くにヴァンパイアが居ることになる。まだだが10キロ以内なので大丈夫だろと思っていたら後ろから足音が聞こえてきた。振り返るとヒョロヒョロなおじさんが居た。そのおじさんはニヤニヤとしながらこちらを見つめてきた。

「ねぇー君。えろいねえー」

とこちらを舐めいるような目でこちらを見つめてくる。あまりの気持ち悪さから足を竦めていると路地裏に引き込まれた。

「危ない!」

この何者かが叫んだ瞬間辺り一体が爆発したのだった。

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