異世界で仕立て屋になる
@coccozy
第一着 背中のファスナーは割と一人で上げられる
「はぁ…今日も売り上げ伸びなかった…。」
独り言を漏らしながら帰路についていた私は
服飾系の専門学校に入学し
デザイナーを夢見て日々勉学に励んでいた私は
就活を目の前に現実を思い知りデザイナーをあきらめ、
なぜか面接の通った販売員をしていた。
「脚は疲れるし、接客は遠ざけられるし、もう嫌だなぁ…」
転職を考え始めた私の目の前に
一つの看板が目に入った。
「“ISEKAI…FW(※1)…展示会(※2)”」
こんなところで展示会をやるなんて知らなかった。
しかも夜遅いのにまだやっているようだ。
「少し、のぞいていこうかな。」
ドアは開いていたのでそのまま足を踏み入れた。
するとまぶしい光に当たりが包まれたではないか。
「っ!?」
思わず目をつぶり、しばらくすると
瞼越しに光が和らいでいくのを感じ、目を開けた。
「…一体、なんだったの…照明にしては強すぎ…」
目を開けるとそこは、
RPGに出てくるような賑わう街並みだった。
「へ…?…私、海外旅行してる?」
少しの間呆然とし、あたりを見回す。
見知らぬ文字、よくわからない言語。
海外にしても文明が遅く感じる街並み。
どう考えても現代の世界とは思えない。
広間なのか大きな噴水の周りに屋台のように
いろんなお店が出店している。
「とりあえず、どこかわからないと…
あの、すみません!…エクスキューズミー?」
適当にそこら辺の人に声をかけていった。
「◎×△?」
相手が何を言っているのかさっぱりわからなかった。
言葉が通じない…それだけでかなりの不安だ。
日も暮れてきたころ何人に声をかけただろうか…
読書をしているお姉さんに声をかけた。
本を読んでるから物知りかもしれない…
「☆〇?」
やはりわからない…
もう泣きそうであった。
「▲?…××!!」
お姉さんは何かを理解したかのような顔をした。
そして私の手を引いてどこかへ連れていくようだ。
「えっ、あの?」
数分歩いただろうか、
他の住居とは少し違う建物についた。
「▽△!」
お姉さんが建物の中に声をかけている。
何回か同じ単語を叫んでいる、名前なのかな?
するとそこから大柄なおじさんがでてきた。
「…〇?」
「×△▲…×〇!」
私の方を時折指をさし、何か言っている。
この建物は何なんだろうか?
「×~…」
複雑そうな顔をしておじさんがこちらに来た。
「…ゴホン、…English?」
英語だ!!言葉がわかる!!
でも英語だと単語くらいしかわからない!!
「あ~…アイム…ジャパニーズ…」
日本語は喋れるのか不安になりつつも返事をした。
「…あ~、…ニホンゴか。わかるか?」
今日一番、いや人生で一番の感動かもしれない。
「通じます!あ、あ~よかった…ほんとによかった…」
「オレも、そこまでうまくないのだが…
オマエみたいなやつが前にもここにきた。
ソイツは絵がうまかったから、言葉もわかった。」
若干の片言ながらも一日ぶりの日本語に
酷く安心していた。
「ここは、どこなんですか?
前にも私みたいなのが来たって…
もう訳が分からなくて…」
「ここはニホンゴで言えば…ブーシャの町だ。
おそらく、ダレかが召喚魔法を失敗して
他のセカイの人間がくる。
それが数年に一回あるんだ。」
そんな…つまりはここは地球じゃない
次元も違うということ…?
「そんな…その、前に来たっていう人は
どうなったんですか?」
「このセカイの言葉をおぼえたら、
旅に出てしまったよ。
絵を売って生活していたしな。」
その人、強すぎるでしょ?
私も、帰る術がない…
でもどうやって生きていったらいいの?
「×~!▽△…〇××…」
連れてきてくれたお姉さんが
おじさんに悲しげに話しかけた。
お姉さんの手元を見るとスカートの縫い目が
破けてしまっている。
このままだと下着が見えてしまう…
「…少し、じっとしててくれますか?」
おじさんが翻訳してお姉さんに伝えた。
私は鞄から小さい裁縫セットを取り出した。
売るお洋服の簡単な修正ならこそこそしていた
私にとってはスカートの縫い目を応急手当
することなど苦ではなかった。
スカートの色に近しい色を選び、縫い上げ
見えないように玉止めをした。
「…〇!○○!!」
「スゴイ、アリガトウ、っていってるぞ。」
お姉さんはとてもうれしそうだった。
「この服、コイツのお気に入りなんだ。
だからすごく感謝しているぞ。」
「そうなんですね、役に立てて良かったです。」
さて、ひと段落もしたし
私の人生について再検討しましょうか…
人生あきらめモードに入っている私を横目に
おじさんとお姉さんはなにやら話している。
うんうん一人で考えているとおじさんが話しかけてきた。
「…なぁオマエ、裁縫?ができるのか。」
「はい、ある程度の服とか小物が作れます。」
なんでそんなことを聞くのだろう…
学校に通っていたのでシャツやスカート
はたまたドレスまでなんとか作れはする。
「オマエの住める所と働き口あるぞ、いくか?」
神様…いままで信じなくてごめんなさい。
今こそ感謝します!
「いきます!」
連れていかれたのは他のお店より
三分の一ほどの小さなお店だった。
お役様が10人入ったらいっぱいいっぱいだ。
中に入ると誰もいなかった。
埃のかぶった商品棚、恐らく布であったものが
床に散乱している。
「ココは、前は仕立て屋だった。
店主が亡くなってから解体もできず
店だけが残ってしまった。」
「そ、そんなところを使っていいんですか?
第一、仕立て屋をやるなんて…」
服は作れるが売るほどの自信はない…
ていうかこのおじさんは日本語を話せたり
こんな小さなお店まで把握していたり、
一体何者なの!?あぶないひとかな…
「失礼ですけど…あなたの職業は?」
「ニホンゴだと…不動産屋かな。
だから土地もケーサツより詳しいし
情報もたくさん回ってくるのさ。」
「なるほど…?」
「オセッカイを焼きたくないが、
ここ以外だと身分不明のオマエには
厳しいと思うぞ。」
確かに…第一目標は生きること
死ぬ気で頑張ってみるしかない…!
「っよろしくお願いします!」
そうして私の異世界での生活が始まったのであった。
※1…FW(Fall(フォール)/Winter(ウィンター))、
またはAD(Autumn(オータム)/Winter(ウィンター))
秋冬シーズンのことを指す、対義語は春夏を指す
SS(Spring(スプリング)/Summer(サマー))
※2…展示会とはブランドが次の季節の新しい服をショールームなどで展示し、
実際の購入者やセレクトショップの仕入れの人などが購入するかどうか
検討する行事である。お菓子やお茶も出たりする。
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