貴女の青春を僕に教えてよ
ハンくん
1話
「別れましょう……」
26歳の春、結婚を前提に2年間付き合っていた彼女にフラれた。互いに干渉はしすぎないけれど、お互いがお互いを理解し合えていて、カップルらしい事もした。誰もが羨む理想のカップルだったのに。
**************
「ただいま」
誰もいない部屋に向かって言う。真っ先に冷蔵庫に向かい、酒を取り出す。そして、2人用のソファにデカデカと座る。
別れようと言われた時には何も感じないくらい無であったが、時間が経つに連れ、段々と虚しくなってきた。さっきただいまと言ったのは誰かに抱擁してもらいたかったのかもしれない。そう思った。
そんな僕はふと昔の学生だった頃の事を思い出す。その途中、大きな疑問が一つ浮かんだ。
"青春"って何だろう
そう思った瞬間、突如、謎の虚無感に襲われる。そして、一瞬意識を奪われるような感覚の後、ふと周りを見渡すとそこには何も無い。ただ、薄い虹色に輝く空が広がっている世界のド真ん中で、水面の上にポツンと自分が座っていた。心まで包み込むような優しいそよ風が吹いていて、疲れきった心に染みていくような小雨も降っている。身体がポワポワして心地が良かった。
その気持ち良さとそよ風にのせて、先程疑問に感じたことを声に出してみる。
「青春って何だろう」
一説によると、青春と言うのは、季節の「春」を示す言葉である。転じて、生涯において夢や希望に満ち溢れ、活力のみなぎる若い時代を、人生の春に例えたものであり、主に青年時代を指す言葉として用いられるらしい。
しかし、そのことに僕は引っ掛かりを覚えた。若いだけが青春なのかと。部活の仲間と一緒に汗を流したり、友達と遊んだり、彼女を作ってイチャイチャしたり、最近ではこのようなニュアンスで使われることが増えてきているような気がする。それも一つの青春なのかもしれない。
ただ、僕はそれすらも違う気がした。答えはもう少しで思い出せそうだが思い出せない。すごく大事なことだったはずだが、まるでそこの部分に薄く霧がかかっているようだ。その感覚と格闘していたところで、
「思い出せなくていいんだよ」
真後ろから女性の声が聞こえる。女性と言っても少し幼い感じもするが。そして、とても懐かしくも哀しい声であった。僕は後ろを向こうとする。すると、
「絶対に後ろを向かないで」
強く牽制された。女性にそこまで言われたら守る他あるまい。それよりも気になることがあった。
「
「知ってるよ」
「なら、その答えを教えて欲しい」
「私は、今のキミにはそれが必要だとは思わない。だから教えることはできないの」
答えを聞けたら何かが分かるかと思ったが、女性は教えてくれない。
「なら、答えを見つけられないまま、悩みは心にしまえと?」
「それは違う。キミの悩みに対しての答えは探して導くのじゃない。創っていくものなの。」
女性の言葉に僕はハッとした。それと同時に昔の思い出が頭の中流れ込んでくる。
「そう言う……ことだったのか……」
やっと思い出した。何故こんな大事なことを忘れていたのだろうか。
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