Ⅵ PILOT
Ⅵ-1 REBORN
暗夜クルーズ
高速輸送船「サウザンアトラス」が海上をゆく。本国首都の港を出航してすでに4日、「サウザンアトラス」は50ノットの巡航速度で航行していた。その船上に一人立つ少女は相対速度100キロ以上の合成風を受けながら中部大西洋の風に吹かれる前甲板にただ立っていた。
「そろそろアイウンに入港するぞ、マサ中佐に連絡してくれ」
「はい」
船員が船橋を出る。速度を30ノットに落とした「サウザンアトラス」は、午前1時半の海上を滑走するように航行しながらアイウンの灯台を捉え、入港航路にピタリとつけて速度をさらに落とした。
「あと20分だ、船員は起きてるな?」
「ええ」
「ところでマサ中佐は?」
「ああ、今しがた船内に戻られました」
「そうか。輸送機コンテナ展開準備!出港時間は2時30分だ、慌てず急げ」
「はい」
「サウザンアトラス」の後部コンテナ区画に一つだけ搭載された大きな流線型のコンテナの上部が開き、コンテナ内に風が吹き抜ける。長さ18メートル、幅30メートルもあるコンテナの中には、鋭角的で近未来的なシルエットの漆黒の機体が月明かりと作業灯に照らされ、飛行可能状態への転換が行われていた。
「予備部品輸送コンテナ、問題なし」
「主翼及びエンジン取り付け完了!」
「ハードポイントの貨物投下装置は仮止めのままだとまずいぞ、もっとしっかりボルトを締めろ」
「はい」
作業灯の中で新型輸送機「ニャメⅠ」は飛行に備えエンジンテストを始めた。
「エンジン、問題なし!」
「全センサー、正常値!」
「サウザンアトラス」がアイウン港に入港すると、コンテナの内部からニャメⅠがクレーンで吊り上げられ、港の埠頭に下ろされた。
「エンジン始動準備!予備パーツ搭載急げ!」
「サウザンアトラス」からトラックで下ろされた物資がニャメⅠに搭載される。ニャメⅠは作業員が退避したのを確認すると、エンジンをフル回転させて離陸した。
「よし、オドマンコマとランデブーする!メリナ、オドマンコマと通信を」
「了解」
副操縦士席に座るメリナと呼ばれた若い女が通信機のマイクを下げ、オドマンコマに呼びかける。
「こちらニャメⅠ、ランデブー地点へ向かう。浮上されたし」
「こちらオドマンコマ、了解」
オドマンコマが砂の中から現れ、ニャメⅠを迎え入れるべく格納庫エレベーターに誘導灯をともした。ニャメⅠはゆっくりとエレベーター上に着地し、オドマンコマの格納庫に入った。
「どうもカーバ所長、お久しぶりです」
マサはブリッジに入り、カーバにお辞儀をした。
「……」
「どうされました?」
「10代の学生にしか見えないんだが……本当に君はマサ中佐か?」
「ええ。あの事故で身体が動かなくなってしまいましてね。それで身体再建治療としてサイボーグ化手術を受けてきたんです」
「骨折治療みたいに言わないでくれ……」
「気に障ったようでしたらすみません。カーバ所長、それより私の身体、見ます?」
「見たところ顔も若くなっているようだが」
「ええ、見た目の問題でね。顔面は自分の細胞から作った新しい筋肉と皮膚でリメイクしました。10代の頃の私の顔そっくりでしょう?」
「その頃のマサ中佐を見たことがないのでなんとも言えないんだが……」
「何はともあれ、今の私の50%は機械です」
「となると……かなり機能不全になったんだな」
「ええ、あの事故は酷いものでしたからね」
「というか燃料の爆発事故で全身をやられてどうやったら生還できるんだろうとは正直思ったよ」
「そうですか……まあ我が国の技術は素晴らしいですからね、頼んだらサイボーグにしてくれました。便利な機能はあまりありませんが五体満足な人間同様の生活は送れます」
「はええ……そうだ、夜食にしないか」
「私、朝昼晩とおやつ以外は食べない主義ですけど」
「ああ、そうだったな。サイボーグになっても変わらないのか……」
「ええ。食事はできますからね」
「さすがにそれはわかるよ」
「そうですか。ではおやすみなさい」
「おやすみ」
マサはブリッジを出ると、自室の番号を探して廊下を歩いていった。
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