第36話 嫁力選手権⑤

 父さんが提案して始まった嫁力選手権も今日で最後だ。


「ていうか、父さんいないし……まあ、その方が静かで良いけど」


 そんなことを呟いていると、


 ピンポーン。


「あっ、来たかな」


 僕は小走りで玄関へと向かう。


 玄関ドアを開くと……


「こんにちは」


 清楚な出で立ちの和沙ちゃんがそこにいた。


 清楚とは言いつつも、水玉模様のノースリーブシャツが、いつもより少しだけ大胆だ。


「どうしましたか、真尋くん? そんな風にわたしのことをジロジロと見て……」


「あ、ご、ごめん。つい……」


「まあ、良いんですけど……あまり見られると、恥ずかしいので」


「そ、そうだよね。とりあえず、中に……」


「はい、お邪魔します」


 和沙ちゃんは小さく頭を下げて、玄関ドアをくぐった。


「あのね、この企画の首謀者の父さんがいないんだけど……」


「はい、知っています」


「えっ、どういうこと?」


「実は昨晩、そちらのお宅にお電話をさせていただきまして」


「いつの間に……」


「真尋くんのお父さんに、家のことはわたしに任せて、気兼ねなくお母さんと遊びに行って下さいと提案したんです」


「マ、マジで? そういえば、母さんも居ないな」


「はい。やはり、真尋くんと2人きりになりたくて」


 和沙ちゃんは相変わらず遠慮がちながらも、僕のことをジッと見つめて言う。


「……なんて、ご迷惑でしたか?」


「いや、そんなことは……」


「では、真尋くんが判定して下さい。わたしがちゃんと、真尋くんのお嫁さんを出来ているかどうか」


「あ、うん……がんばって」


 なるべく上から目線にならないように僕もまた遠慮がちに言う。


「まずは、何からしましょうか?」


「えっと、他の2人はまず掃除からしてくれたかな」


「では、わたしもそうします」


 リビングにやって来ると、和沙ちゃんは持っていたバッグから、何かを取り出した。


「あっ、エプロン……」


「はい」


 そう言えば、他の2人はエプロン着ていなかったな。


 厄介なセクハラ父さんを追い出した件と言い、和沙ちゃんは抜け目がない。


 もし、本当にお嫁さんになってくれたら、僕の生活は大いに円滑に回るかも。


 他の2人はひたすらに、僕を翻弄しまくるだろうし。


「では、真尋くん」


「あ、じゃあ、僕は邪魔にならないように、2階の部屋にでも行って……」


「何を言いますか。一緒にやるんですよ」


「えっ?」


「その方が効率がアップします。それとも真尋くんは、家事なんて嫁にやらせておけば良いんだなんていう、前時代的な思考の持ち主ですか?」


「い、いや、そんなことはないよ。ぜひとも、僕にもお手伝いをさせて下さい」


「では、1階はわたしがやっておきますので。真尋くんはご自分の部屋を中心に、2階の担当をお願いします」


「りょ、了解しました」


 和沙ちゃんは特別キツい口調で言っている訳じゃないのに、僕は何だか背筋がピンと伸びてしまう。


「お昼まで2時間ほど。その間に、出来るだけ家中をピカピカにしましょう」


「そ、そうだね」


「もし、きちんと掃除をがんばってくれたら、ご褒美をあげます」


「ご、ご褒美?」


 僕はなぜだか、和沙ちゃんの可憐な唇に目が行ってしまう。


「はい。美味しいお昼ご飯を作ってあげます」


「あっ……」


「ご不満ですか?」


「い、いや、そんなことは……楽しみだなぁ~!」


「そう言ってもらえると、わたしもやる気が出て来ました」


 和沙ちゃんは小さくニコッとしてくれた。




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