第4話 痛み

「おっほ~、コレコレ~♪」


 カラフルなその箱を持って見ながら、前島さんは目をキラキラとさせている。


「すごいじゃん、まーくん。童貞のくせにセンスが良い!」


「あ、あはは……」


「でも、どうして童貞のまーくんが、こんなにセンスの良いゴムを選べたの?」


「あ、あまり童貞、童貞って言わないで欲しいんだけど……」


「良いから、教えて」


「いや、その……実はコンビニで、市野沢さんと出くわして」


「麗美と? じゃあ、これ麗美が選んでくれたの?」


「そうだね」


「なるほどね~。やっぱ、童貞のセンスじゃないわ、これ(笑)」


 とことん、童貞をけなすなぁ~。


「和沙もそう思うっしょ?」


「私も処女なので、よく分かりませんが」


「ていうか、和沙のかれぴって将来ゆーぼうな有名大学の学生なんっしょ? さっさとパコッて既成事実をつくっちゃえよ~!」


「まあ、でもやっぱり、初めては中々に躊躇ちゅうちょしてしまうので」


「だったら、まーくんで練習すれば? 童貞だし粗◯ンだろうし(笑)」


「うぅ……どこまで、僕をイジめれば気が済むんだ~!」


「あはは、泣き顔ウケる~!」


「ごめんなさい、初めては好きな人としたいので」


「しかも、フラれてっし~! ウケる~!」


 うぅ、僕が何をしたって言うんだ……


「あはは! 笑い過ぎてのど渇いてジュース飲み過ぎたわ~。まーくん、おかわり!」


「あ、わたしもお願いします」


「……了解です」


 僕はガックリと肩を落としながら、2人のコップをおぼんに載せて立ち上がった。




      ◇




 パシャリ。


「はーい、麗美ちゃん、おつかれさ~ん!」


「おつかれさまで~す!」


 ニコッと笑顔を浮かべながら、脇の方へと下がって行く。


「麗美、おつかれ」


 そんな彼女に声をかける男がいた。


「あ、陸斗。そっちも終わった?」


「うん」


 彼の名は冴島陸斗さえじまりくと


 麗美と同じ高校生でモデルをしている。


 学校は違うけれども。


 イケメンで、同年代の女子からの支持が厚い。


 また、男子からも憧れられる存在だ。


 そんな彼は、麗美にとって、ふさわしい彼だと思っている。


「今日、この後は空いているか?」


「うん、空いているよ」


「じゃあ、俺の家に来いよ。今日、親がいないし」


「……うん」


 麗美は少し照れながら頷いた。




      ◇




 思えば、自分に初めてキスの味を教えてくれたのは、陸斗だった。


 中学時代にも彼氏がいて、一応はキスしたことがあるけど。


 それはお子様みたいなモノだったから。


 イケメン彼氏の陸斗と付き合ってから、初めて恋人の本物のキスを覚えた。


「……麗美、可愛いよ」


「……ありがとう」


「じゃあ、このまま……」


「あ、待って」


 麗美が止めた。


「ちょっと、エッチは待って欲しいかなって」


「えっ、どうして? もしかして、女の子の日?」


「ううん、そうじゃないけど。ちょっと、撮影でふくらはぎとか張っちゃって。だから、マッサージして欲しいな~と」


「ああ、良いよ。麗美は甘えん坊さんだな」


 普段は周りから大人びていると言われる麗美も、好きな彼の前ではすっかり甘えん坊さんになってしまう。


「じゃあ、ベッドに横になって」


「はーい」


 麗美は言われた通り、ベッドでうつ伏せの姿勢になる。


「えっと、ふくらはぎだっけ?」


「そう」


「じゃあ、早速、行くよ?」


 彼に言われると、ゾクゾクするようだった。


 顔だけじゃなくて、声も良いから。


 そして、彼の指先が、麗美に触れる。


「んッ……」


 ググッと。


「い、いたッ! ちょ、ちょっと、陸斗……強くない?」


「えっ? でも、これくらいしないと、あまり効果がないよ?」


「そ、そうなのかな?」


 麗美は少し疑問を抱きつつも、


「大丈夫、俺に任せて」


 イケメンの彼に言われて、とりあえず頷く。


 けど……


「い、痛い!」


「お、おい!」


 あまりの痛みに耐えきれず、麗美は陸斗の腕を蹴ってしまった。


「ってぇ~」


「あっ……ご、ごめん」


「お前、ふつう蹴るかよ」


「だ、だって、陸斗が痛いって言っても、やめてくれないから……」


「はぁ~、何かえたわ……悪い、今日はもう帰ってくれる?」


「えっ……あ、うん」


 麗美は顔をうつむけながら、部屋を出た。


 そして、彼の家を出て歩く。


 まだ、ふくらはぎは痛んでいた。


 むしろ、痛みが増している。


 けどそれ以上に、胸が痛かった。


(思えば、陸斗ってキスとか上手だけど、本番のエッチは……強引で、ちょっと痛いのよね)


 甘いルックスと言葉が魅力の彼だけど。


 肝心な所でいらないSっ気を発揮してしまうと言うか……


(けど、私も真尋に対して、Sっぽく接しちゃっているし……)


 ふと、自然と彼のことを考えていて、驚いた。


「……真尋」


 彼のことが、何だか恋しくなっていた。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る