カメラ小説

 自作語りをもう1件。


 バトル・オブ・ブリテンの話を書き上げてから、アイデアが降ってきた。


 ライトノベルで学ぶカメラと写真。ニコン使いのニコという先輩が後輩にあれやこれやと教えてくれる。先輩のカメラはF3。撮影する姿を見て一目ぼれした「ぼく」は写真部に入部。入部の動機は「ニコ先輩をきれいに撮りたい!」。


 タイトルは秒速で決まった。『古いカメラとニコ先輩』。名前もそんなにはかからなかった。ヒロイン:色消ニコ。主人公:野区都五十八。愛称はノクト58。サブヒロイン:花咲萌花。後藤部長と孝学太郎先生はニコン関係の名前。

 とりわけ「色消(いろけし)」という姓は「これだ!」と思い、これに勢いを得て最終話まで書き切った。「色消し」というのはレンズの設計で色収差を減らすこと。ガラスの屈折率は色により違うので、単一のレンズはどうしても色収差が出る。カラー写真では色のにじみとして現れるし、白黒でも像がぼやける原因になる。

 望遠鏡の時代から問題になっていたので、18世紀には「色消しレンズ」が登場した。ガラスの色による屈折率の分散は材料により違うので、屈折率が高く分散が少ない凸レンズと屈折率が低く分散が多い凹レンズを組み合わせると、2枚で凸レンズになり、色収差は打ち消しあって小さくできる。これがアクロマートという色消しレンズ。光の2波長について色収差をゼロとできる。

 光の3波長以上を色収差ゼロにしたのがアポクロマート。現代では異常分散レンズを使ってさらに徹底して色収差を減らしている。レンズに「APO」とついてるのはこのレベルの色消しレンズ。

 という、漢字では色気がなさそうなのに、光学的にはとてもエモい名前。


 

 1話はボーイミーツガールのラノベとして書いた。このままラブコメに発展すると気を持たせる導入部だったと自負している。問題はその後。カメラの仕組みと写真撮影について体系だって書いたつもりだが、読 ま れ な い w w w。

 各話数十PVを稼いだ小説の後の連載にもかかわらず、よくて数PV。17話なんて何か月もPV0が続いた。


 アマチュア創作あるある:ウケた作品があった場合、読者はその作品が気に入ったのであり、作者を気に入ったわけではない。


 これですよ。ウケる話が作れても、自分が作るものが無条件でウケるわけではない。読者は男の子と女の子のキャッキャウフフな学園生活が読みたいのであり、カメラと写真の体系だった知識を学びたいわけではない。


 ところが、カメラのタグで小説を探し、何作か読んで、「どれもそこそこ面白いけど知識が危ういか、知識は正しいけど内容が体系だっていない。これは自分がいっちょうやってみますか」と頑張ったのだが、それは読者が求めるものではないと。

 なお、当時「これは先が気になる」とブクマした作品がことごとく更新が止まっていて、それはそれでどうなのかと思わないでもない。

 しかし、読まれるけど更新がスローペースな作品と、読まれないけど最終話まできっちり書かれる作品と、読者にとって価値があるのはいったいどちらか?

 自分には分からない。


 いっこうにPVが増えない『古いカメラとニコ先輩』。pixivでビジュアルイメージを作って誘導したけど効果なしだった。

 最終的には、丸ごとpixivに引っ越すという決断をした。pixiv向けかもしれないという思い付き。あとあっちは表紙をつけられる。

 移転先はこちら。


https://www.pixiv.net/novel/series/1315620


 PV0状態は早々に脱したので、一応正解だと思っている。しかし、評価はほとんどついていないので、読者が本当に求める作品ではないのは確か。


 ただ、第12話「露出の段」だけは異常にPVが多く、現時点で368。ブクマも3件いただいている。


https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12992254


 よく分からないのだが、pixivでは小説を「露出」で検索する人が多く、それにヒットしてよく読まれているらしい。


 この小説の表のテーマはカメラと写真だが、裏のテーマは「天才」だったりする。よく作者より頭のいいキャラは作れないという。だとしても、自分では到底到達しえない境地にいる人間を、想像力で描くという挑戦はできる。

 読者にどれだけ伝わっているかは分からないが、自分としては挑戦のし甲斐があるキャラだった。

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