第89話「金髪美少女と黒髪美少女の取り合い」
「えっと、じゃあ……」
陽は戸惑いながらも、佳純へと伸ばしていた手を真凛の頭へと置く。
フワフワとした髪の上から丁寧に撫でると、真凛はまるで猫のように気持ち良さそうな表情を浮かべた。
真凛の表情を見た陽は、不覚にもかわいいと思ってしまう。
そしてその横では、佳純が小さく体を震わせていた。
「佳純……?」
「横取り、された……!」
「ちょっ、佳純! 引っ張るな!」
真凛の頭を撫でている陽の手を、頬を膨らませた佳純がグイグイと引っ張り始めてしまった。
どうやら自分のほうへと持っていこうとしているらしい。
しかし、力的には陽のほうが強いので、真凛の頭から動かすことはできなかった。
「むぅ……!」
陽に撫でてもらいたいのに、陽が真凛の頭を撫で続けるので佳純は頬をパンパンに膨らませてしまった。
そして、訴えかけるかのように陽の顔を見つめる。
「えっと……ごめんなさい」
さすがにまずいと思ったのか、申し訳なさそうに真凛は佳純へと謝った。
しかし――。
「そう言いながら、まだ頭撫でられてる……!」
真凛は陽の手から離れるわけでもなく、そして止めることもしないので佳純は更に怒ってしまう。
「まぁまぁ、元々お互いやってもらう約束なんだからさ」
このままでは更に佳純が怒ると思った凪沙が、佳純の後ろに回って優しく手を押さえた。
もう煽ることはせず、宥めることにしたようだ。
「でも、さっきのはタイミングがおかしい……!」
「先に真凛ちゃんの邪魔をしたのは僕たちだよ」
「だけど、撫でてもらえてたのに……!」
「まぁまぁ、順番を待とうよ。ねっ、陽君。この後ちゃんと佳純ちゃんを撫でてあげるんだよね?」
凪沙は佳純の手を押さえながら、陽の顔を見上げて尋ねる。
「あ、あぁ……」
さすがの陽も、この状況でしないとは言えずコクリと頷いた。
それにより、しぶしぶ佳純は諦める。
シュンとした佳純を見た陽は、胸が少し痛くなってしまった。
(う~ん……やっぱり、こういうのってよくないよな……)
一度仲違いをしたとはいえ、陽にとって佳純はとても大切な幼馴染みだ。
そんな佳純を傷つけるのは、陽にとって喜ばしくなかった。
しかし――かといって、甘えてくる真凛を切り捨てることもできない。
甘やかすことで失恋の傷が癒えているのであれば、陽は真凛を受け入れないといけなかった。
ただ、陽から見ると真凛は妹が甘えてきているようにしか見えず、そこに恋愛感情はないと思っている。
だから、いつかは自分から離れていくのではないかと。
(その時が来るまでは、秋実のことを甘やかし続けるか……)
結局、陽は下手に口を挟むことはせず、静観することにした。
そして真凛の頭を撫でた後は佳純の頭を撫でる。
すると、その後また真凛が頭を差し出してきたので、もう一度真凛の頭を撫でて、一旦区切りがつくのだった。
「――ねぇ、陽君」
「どうした?」
「一応謝っとく。ごめん」
「今更何を……」
「いや、うん。ごめん」
思った以上に真凛が積極的になり、陽が慣れて耐性が付く前に、二人を甘やかし続けないといけないという状況ができあがりそうで、凪沙は少しだけ罪悪感を抱くのだった。
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