第71話「黒髪美少女は金髪美少女に助けを求める」

「むっすぅ……」


 電車で目的地へと移動する中、陽の隣に座る佳純は不機嫌そうに頬を膨らませていた。


「そんなあからさまな態度をとるなよ……」


 全身から機嫌が悪いことをアピールする佳純に対し、陽は呆れたように溜息を吐きながら注意をした。

 すると、佳純は物言いたげな目で陽の顔を見上げてくる。


「贔屓男」


 佳純はそれだけ言うと、今度は視線を窓の外に向けた。

 どうやら話し合うつもりはないらしい。


 佳純の機嫌が悪くなった原因――それは、先程佳純と真凛の間に入った陽が真凛の味方をしたからだった。

 当然自分の味方をしてくれなかった佳純にとっては面白くなく、今のように拗ねてしまっているのだ。


「誰がどう見ても佳純ちゃんが絡んでいたからでしょ。それなのに拗ねるとか、相変わらずめんどくさいな」


 そしてそんな佳純に対し、火に油を注ぐとでも言わんばかりに挑発する凪沙。

 おかげで、殺意をふんだんに含んだ佳純の目が凪沙へと向いた。


「やる気があるなら外に出なさい、相手になるわ」

「電車が動いてるんだから出られるわけないじゃん。てか、君喧嘩弱いでしょ。また泣かされて陽君に泣きつくの?」

「そんな事実は存在しない」

「あれ、もう忘れたの? 昔君から突っかかってきたくせに――」


 ここぞとばかりに言い合いを始める佳純と凪沙。

 佳純が真凛に絡むことは想定していた陽だが、佳純と凪沙が喧嘩をするとは思っていなかったため頭が凄く痛くなる。

 真凛は真凛でいつも知っている凪沙とは雰囲気が違うからか、二人を交互に見ながらあたふたとしているし、どう見ても今から遊びに行く雰囲気とはとても思えなかった。


「二人とも落ち着け。というか、お前ら本当にいつからそんなに仲が悪くなったんだ……? 昔はここまでじゃなかっただろ?」


 陽の記憶では、凪沙が現れると佳純は嫌そうにするけれど、二人きりにすると案外仲良くやっていた印象だった。

 それなのに今では取っ組み合いを始めてもおかしくないほどの仲の悪さだ。

 いったい陽の知らない間に何があったのか。


「まぁ強いて言えば、君のせいじゃない?」


 陽が質問をすると、凪沙は水が入ったペットボトルを口に含みながらそう答えた。

 それに対し、佳純はプイッとソッポを向いたので凪沙が言っていることが正しいようだ。


「なんでまた俺が原因になるんだよ……。俺は何もしてないだろ?」

「知らぬは本人ばかりってね。知ってる? 君と佳純ちゃんのあの夜・・・から、毎晩毎晩佳純ちゃんが僕に電話をしてきてたのを」

「えっ、そうなのか?」


 思わぬ情報が出てきて、陽は半ば無意識に佳純へと視線を向ける。

 しかし佳純はこちらを向いておらず、窓から外の景色を眺めていた。


 話に入るつもりはない、その意思表示のようだ。


「そうだよ。最初はよかったさ、ただ泣きついてくるだけだったからね」

「最初は……?」


「そう、酷かったのは途中からだよ。この子なんて言ってきたと思う?」

「いや、知らないが……」


「僕が陽君のことをたぶらかしたせいだ、って言いだしたんだよ。猫耳キャラなのも、陽君が猫好きだったからなんでしょって」

「…………」


 凪沙の言葉を聞き、再度陽は佳純へと視線を向ける。

 すると、先程まで景色を眺めていたはずの佳純は両腕を組みながら目を閉じていた。

 どうやら寝始めたらしい。


「――いや、白々しいぞ。その態度、お前自分が悪いってわかってるな?」


 この数秒で寝られるはずがなく、先程まではかいていなかったはずの汗が少し佳純の顔を伝っている。

 ましてや閉じられたまぶたはピクピクと痙攣しており、誰がどう見ても寝たふりなのは明らかだった。


「別に、私は悪くない」


 逃げきれないと判断したのか、目を開けた佳純は自分が悪くないと主張をし始めた。

 しかし――。


「だったら俺の目を見て言えよ。何あからさまに目を背けながら嘘ついてんだ」


 当然、そんな言葉がこの状況で通じるはずがない。


「……知らない」

「知らないって言えば許してもらえると思うなよ? 凪沙がここまで怒るってことはもっと酷いこと言ってるんじゃないのか?」

「まぁ怒鳴り散らされたし、結構酷い八つ当たりはされたね」


 そう言う凪沙の訴えを受け、陽は再度佳純の目を見る。

 すると、佳純は目を彷徨わせ最終的には助けを求めるように真凛を見た。


 当然その目の動きを陽と凪沙は追えており、二人とも同じことを考える。


 よく、真凛に助けを求めれたな――と。


 しかし、この状況で真凛がどう出るのか気になった二人は、あえて口を挟むことはしなかった。


 そして助けを求められた真凛はといえば――。

「とりあえず、ごめんなさいをしましょう」

 ――笑顔で、至極真っ当な意見を佳純に返したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る