第45話「甘えるのが好き」
「なぁ、お前約束守るつもりないだろ……?」
陽は家に訪れた人物を自身の部屋と招くと、ベッドに座り額に手を当てながら溜め息を吐いた。
それに対して相手は拗ねたように頬を膨らませ、物言いたげな目で陽を見つめてきている。
「陽が、たくさん甘やかすって言ったのに……」
そう文句を言うのは、綺麗な黒髪を長くまっすぐに下へと伸ばした美少女――根本佳純だった。
陽はそれに対して再度溜め息を吐く。
「だからって、別に週に行う回数を増やすだなんて言ってないぞ?」
「むぅ……嘘つき」
「いや、嘘なんてついてないからな? お前が週二回に増やすことを持ち出した時にちゃんと俺は断り、その代案としてたくさん甘やかすと言ったんだろ?」
「つまり、週三回ならオーケー?」
佳純が上目遣いになってそんなことを聞いてきたので、『なぜ了承を得るために逆に数を増やすんだ』と陽は文句を言いたくなる。
しかしここで文句を言っても佳純はどうせ更に拗ねるだけなので、今機嫌を損ねるわけにはいかない陽はグッと我慢をした。
「駄目だってわかってて聞いてるよな?」
「陽ならワンチャン」
「残念ながら駄目だ」
陽がそう言うと、佳純は再度頬を膨らませる。
そして、文句を言う代わりに陽の隣に座り、陽の肩に自分の頭を乗せてきた。
下手に言葉で交渉するのではなく、陽の情へと訴える行動に出たようだ。
そして甘えてこられた陽はといえば――。
「……今回だけだからな?」
佳純のことを拒否することはせず、佳純の腰へと手を回した。
なんだかんだ言って幼馴染みには甘い男なのだ。
しかし、今回に限っては別の目的が陽にはあった。
陽がそのまま佳純の体を持ち上げるために力を入れると、佳純は嬉しそうに腰を浮かせて陽の膝の上へと座ってくる。
そして陽の胸へと頭を預けてきた。
陽はそんな佳純の頭を優しく撫でながら、ゆっくりと口を開く。
「本当に佳純は甘えん坊だよな」
「うん、陽に甘えるの好きだもん」
「…………」
さすがにすぐに本題に入るのはよくないと思って雑談をしようとした陽だが、思わぬカウンターを喰らって思わず黙り込んでしまう。
頬が熱くなるのを感じながら佳純の顔を見ると、佳純は期待したように陽の目を見つめてきた。
その目からは、たくさん甘やかせと言われているように陽は感じる。
(あぁ、失敗したな、これは……)
佳純のご機嫌を取るためにした行動が完全に裏目に出てしまい、陽は佳純の自分に対する依存度が数段増してしまったことを、今更になって気が付いたのだった。
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