第38話「金髪美少女は屋上で二人きりで食べたい」

「おはよう、秋実」


 陽はなるべく平静を保ち、後ろめたいことなんてないとアピールするかのように真凛へと挨拶をした。

 すると真凛はそれで我に返り、慌てて頭を下げる。


「お、おはようございます、葉桜君、根本さん」

「おはよう、秋実さん」


 真凛に対して佳純も挨拶を返すが、真凛は思わずそんな佳純の顔を見つめてしまう。


(聞いていた通り、本当に葉桜君の傍にいます……。やはり、侮れませんね……)


 真凛は昨夜の凪沙との会話を思い出し、再度決意を固めた。


「珍しいな、登校中に会うだなんて」

「あっ……まぁ、いろいろとありまして……」

「何か問題が起きたのか?」


 声をかけられた真凛が言いづらそうに曖昧に誤魔化したので、陽は真凛の身に何か起きているのではないかと心配する。

 しかし、真凛はすぐに首を横に振った。


「い、いえ、そういうことではないのです」


 真凛が家を出るのが遅くなった理由――それは、凪沙との長電話ともう一つ理由があった。

 だけどすぐにはそのことを言い出すことができず、真凛は恥ずかしそうに身をよじる。


 それを見た佳純は不機嫌そうに眉を顰め、陽の顔を見上げて口を開いた。


「陽、あまりゆっくりとしていると遅刻するわよ?」

「あ、あぁ、そうだな」


 佳純に急かされ、登校時間にあまり余裕がないことを思い出した陽は学校に向かおうと踵を返す。

 しかし――。


「あ、あの、葉桜君……!」


 真凛が陽を呼んだことで、陽は再び足を止めて真凛の顔を見た。


 すると、真凛はまたモジモジと恥ずかしそうに身をよじり、そして熱を秘めた瞳で陽の顔を上目遣いに見つめ始める。

 その姿を見て嫌な予感がした佳純はすぐに口を開いて割り込もうとするが、陽は手をあげて佳純が声を発するのを止めた。

 

「どうした?」


 そして、真凛に対して首を傾げて優しい声で尋ねる。

 佳純は物言いたげな目で陽を見つめるが、ここで駄々をこねるのは得策ではないと判断し、グッと言葉を呑み込んだ。

 そんな二人のやりとりに関して現在舞い上がってしまっている真凛は気が付いておらず、陽に対して恥ずかしそうに口を開く。


「その、お弁当を二人分作ってきましたので……今日は、屋上で食べませんか……?」


 それは、暗に二人だけで食べたいという誘いだった。

 当然そんなアプローチを陽がされたのなら佳純は無視することができず、今度こそは――と、口を開こうとする。

 だけど、再度陽は佳純のことを止めた。

 それに対して佳純はポカポカと陽を叩き始め、真凛は不安そうに見つめてくる。


 もう校門付近ということで生徒たちが集まっている中こんなやりとりをしているので、周りは『修羅場!? 修羅場だよな!?』と嬉しそうに陽たちを囲んでやりとりを見つめていた。


 佳純と真凛だけのやりとりでは全員心配になってくるのだが、今は陽というストッパーがいるので安心して見ることができる。

 そして、美少女二人に取り合いをされるような羨ましい状況の男が困らされる状況は、単純に見ていて面白くて気分がいいのだ。


 そんな視線を陽は一身に集めながら佳純の手をいなし、真凛に対して口を開いた。


「何か相談ごとか?」

「あっ――はい……!」


 陽が自分の言いたいことをすぐに理解してくれたことで、真凛は嬉しそうにコクコクと頷く。


「だそうだ。だから変な勘繰りはよせ」


 真凛が二人きりになりたがった理由を示した陽は、今もなお叩いてきている佳純に対してそう告げた。

 しかし、真凛の態度から佳純の不安は増すばかりで、変わらず物言いたげな目を陽に向けてくる。


「言っておくが、偶然を装って屋上に来ることはできないからな? お前はもう俺たちが昼に屋上へ行くことは知っている、と俺や秋実にバレてるんだから」

「――っ!」


 そして、佳純は昼になったら偶然を装って乗り込むことを視野に入れ始めたところで陽に先手を打たれ、『がーん!』とショックを受けた表情を浮かべた。

 その表情を見た陽は思わず溜息を吐いてしまう。


(やはり、前に食堂に現れたのは偶然じゃなかったか……)


「あの……?」

「あぁ、悪い。俺は問題ないよ」


 涙目で物言いたげな目を向けてくる佳純の目を見つめ返していると真凛が声をかけてきたので、彼女のほうを向き陽は頷いた。

 それにより真凛はパァッと明るい表情を浮かべ、佳純はずーんと暗い表情を浮かべる。


 周りに人がいなければ佳純は全力で駄々をこねたことだろうが、今は周りの目があり、ここで駄々をこねると陽に嫌がられるだけだとわかっていた。

 だから落ち込むしかなかったのだけど――その光景を見ていた周りの生徒たちは、結局この三人の関係はいったいなんなのだろうか、と疑問を持ち始めてしまう。


 そんな外野を横目で見ながら、陽は考えごとを始めた。


(まぁ秋実のほうはただの相談だろうけど、佳純の件が厄介だな……)


 明らかに真凛と陽が一緒にいることを嫌がる態度を見せる佳純を前にした陽は、佳純の悪い評判が流され始めることを懸念する。

 そのため、晴喜と早急に話し合うことを視野に入れ、学校の二大美少女を連れて校舎へと入っていくのだった。


(――あれ? そういえば、根本さん……葉桜君のことを陽って呼んでいませんでしたか……?)

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