第37話「幼馴染みは一緒に登校したい」
「――おはよう、陽」
「…………」
次の日の朝、家を出ると制服姿で待ち構えていた幼馴染みを前にし、陽は思わず黙り込んでしまう。
そんな陽の顔を佳純はニコニコ笑顔で見つめており、陽は頭を抱えたくなった。
「話が違う」
「えっ?」
「お前と約束したのは、一週間に一日だけ俺の部屋で自由にさせるってことだったはずだ。それなのに、どうして一緒に登校しようとしているんだよ?」
「別に、登校云々に関しては禁止もされてないんだから、問題ないと思うの」
陽に文句を言われた佳純は不服そうに小さく頬を膨らませてソッポを向いた。
その態度に陽は(子供か!)とツッコミたくなるが、こうなってしまった佳純が言うことを聞かないことも知っている。
だから、仕方なく佳純の隣に並んで口を開いた。
「お前な、一応木下と付き合ってることになってるんだろ? 他の男子と一緒に歩いているところを他の生徒に見られたらお前の評価が下がるぞ?」
「何を今更。誰かさんのせいでダダ下がりなので問題ないわよ」
「いや、俺のせいみたいに言うけど、元はといえばお前のせいだからな?」
「まぁ別に、他の人からどう見られようとかまわないけどね。陽には誤解されてないんだし」
「…………」
好意を全く隠すつもりがない佳純に対し、陽はいいようのない感情に襲われる。
そしてどうするべきか悩んだ後、周りに誰もいないことを確認して佳純の頭に手を伸ばした。
「――っ!」
急に陽の手が触れてきたことで佳純は驚いて身を縮こませる。
そんな佳純の頭を陽は優しく撫で始め、なるべく優しい声を意識して口を開いた。
「まぁ好きにしていいけど、周りの迷惑になることはもうやめろよ?」
結局陽は、周りの迷惑にならない範囲で佳純のわがままを許すことにした。
晴喜と佳純が付き合っていることになっていることは厄介だけれど、佳純が誹謗中傷を受けるようなら手を打つし、彼氏役である晴喜とはまた話し合っておけばいいという判断だった。
しかし――。
「えへへ……」
頭を撫でられている佳純はだらしない笑みを浮かべており、陽の話を聞いているのかどうかわからなかった。
というか、全く聞いていなさそうだ。
「その、性格が急に変わるのどうにかならないのか?」
佳純のデレデレな表情を見た陽は、思わずそんなことを言ってしまう。
佳純は普段クールなせいでこのデレデレになっている姿とのギャップがありすぎる。
昔はそれでも構わなかった陽だけれど、さすがに高校生にまでなってもこれではちょっと思うところがあった。
まぁ本音を言うと家の中で二人きりの時は構わないのだが、外でこうなられるのは人目が気になってしまうのだ。
「別にわざとしてるわけじゃないし……」
しかし、佳純は不服そうに拗ねてしまう。
どちらかというと子供っぽいのが素なのだから素っ気ない態度をとることをやめればいいのに、と陽は思った。
だけどそんなことを言っても佳純が聞くはずがなく、仕方がないのでもう余計なことを言うのはやめにした。
結局、陽はそれ以上小言を言うのはやめてそのまま佳純と共に電車に乗り、他愛のない会話をしながら登校する事になった。
そして――。
「えっ……?」
校門に近付いても離れてくれない佳純に困っていると、聞き覚えのあるかわいらしい声が後ろから聞こえてきた。
その声がしたほうを見ると、真凛が戸惑った表情で陽と佳純の姿を見つめていることに気が付く。
(なんで、今日に限って鉢合わせするんだよ……)
今まで一度も登校中に会ったことがなかったのに、運悪く真凛と鉢合わせをした陽はこの後の展開を想像して頭が痛くなるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます