第13話「仔犬のような表情と素敵な笑顔」
「――さて、教室に戻るか」
ヨーグルトも食べ終わり、真凛の様子も戻ったことを確認した陽は席を立とうとする。
食堂は広く十分席は空いてるため急いで立ち退く必要はないが、全方位から嫉妬の視線を向けられて針のむしろ状態のこの場から陽はすぐにでも離れたかった。
しかし、真凛は陽の言葉を聞いて表情を曇らせてしまう。
「戻っちゃうのですか……?」
その表情からは陽がこの場からいなくなることを嫌がっているというのがわかり、かまってほしそうな甘えたがりの仔犬のようにも見えてしまう。
真凛の表情を見た周りの生徒たちは全員が息を呑み、陽の答えに注目をする。
すると、陽は少しだけ考えて姿勢を元に戻した。
「居心地悪くないか?」
「でも、クラスのほうが……」
「……そうか」
真凛の言葉を聞いて陽は一瞬場所を移すことも考えたが、周りの様子的におそらく付いてくる可能性が高い。
それならば、椅子もあって飲み物にも困らない食堂のほうがいいと判断した。
しかし、居心地が悪いのは変わりなく――陽は黙り込み、スマホを取り出した。
「あの……」
真凛としては話し相手の陽に黙り込まれると気まずくて仕方がなく、何か話せないかと声をかけようとする。
しかし、陽が何か意味ありげな目を向けてきたことで真凛は口を閉ざした。
そして陽の目に注目すると、陽の視線は再度スマホに移り、もしかして――と思った真凛は、自身のスマホを見てみる。
すると、陽からメッセージが届いていた。
『これで話す』
どうやら陽は周りに聞き耳を立てられるのを嫌い、メッセージでやりとりをすることにしたようだ。
(やっぱり、彼は気が利きますよね……)
真凛はそんなことを考えながら、スマホをタップする。
『わかりました』
『んっ』
(…………えっ、これで終わりですか!?)
メッセージでやりとりをするというものだから、てっきり何か話題を振ってもらえると思ったら陽はそれ以上何も送ってくる様子がない。
真凛は顔を上げて陽のことを見てみると、彼は既にスマホをテーブルの上へと置いていた。
(話す気ゼロではないですか……!)
真凛は思わずそうツッコミたくなるけれど、こちらがメッセージを送れば反応することはわかっていたので、そっちで対応することにする。
『葉桜君はいじわるです』
真凛からきたメッセージにはそう書かれており、陽は首を傾げながら真凛に視線を向けてみる。
すると、真凛の頬は不服そうに小さく膨れていた。
『急にどうした? というか、いつも笑顔でいるというお前のキャラが壊れてるぞ』
『キャラとか言わないでください。笑顔でいたほうがみんな喜んでくださるからしていただけです』
『じゃあ、なんで今は膨れっ面?』
陽にそう聞かれた真凛は、思わずスマホを操作する手を止めてしまう。
指摘されるまで気が付かなかったが、確かに気が付いたら陽には素の感情を見せてしまっている。
真凛にとって今までそんな相手は一人しかいなかったため、どうしてこんな態度を取っているのか自分でも不思議だった。
しかし、一つだけ断言できることはある。
それは、これが恋心によるものではないということだ。
『泣き顔を見られたから、でしょうか……?』
『なんで俺に聞き返すんだよ』
陽にツッコまれるものの、真凛本人でさえよくわからないので仕方がなかった。
だから困ったように陽の顔を見つめると、陽も同じく困ったようにそっぽを向いた。
そして、スマホをタップし始める。
『まぁ、いい』
素っ気なく短い文で返ってきた言葉。
しかし、その素っ気なさが実は反対の意味を持っていると理解した真凛は思わず微笑んでしまう。
(やっぱり、葉桜君はツンデレみたいですね)
真凛はニコニコとしながらスマホをタップする。
『ありがとうございます』
そう送ると、陽は嫌そうに真凛の顔を見てきた。
だから真凛があえて笑顔で返すと、陽はすぐにスマホをタップする。
『何か変なことを考えていないか?』
(変なこと――さて、なんのことでしょう)
真凛は周りを魅了するような笑みを浮かべながら、陽に対して返信をする。
『よくわかりませんが、葉桜君はお優しいですね』
そう送ると、陽は更に嫌そうな顔をして再度スマホを操作する。
そして、テーブルの上においてしまったのだが、真凛のスマホにはメッセージが届かない。
(遅延、でしょうか……?)
こんな急に電波障害が起きるのかわからなかったが、真凛は少しだけメッセージが届くのを待ってみる。
しかし、五分ほどスマホを見つめていても一向にメッセージは届かなかった。
不思議に思った真凛は、ちゃんと送信できているのかを陽に尋ねようと顔を上げる。
そして、気が付いた。
陽が、呆れたような顔をして真凛の顔を見つめていたことに。
(まさか――!)
先程の操作で陽は何をしていたのか――それに思い当たる節があった真凛は、急いでスマホを操作する。
そして、陽のアカウントに無料のスタンプを送りつけてみた。
すると――。
『この相手には送ることができません』
というメッセージが返ってきてしまった。
そのメッセージを受けた真凛はプルプルと体を震わせ、拗ねたように陽の顔を再度見てみる。
しかし、陽は気に留めた様子はなく既に視線をスマホへと向けていた。
その態度がわざと自分を煽っているのだと理解した真凛は、陽が見ていないのにもかかわらずニコッと素敵な笑みを浮かべる。
真凛たちを見つめていた男子たちはそれだけで発狂するのだが、今の真凛にとって周りの反応なんかどうでよかった。
それよりも、目の前にいるいじわるな相手のことで頭はいっぱいなのだ。
(へぇ、そうですか。そんなことをしちゃうのですか。でしたら、私にも考えがありますよ)
この時、陽は知らなかった。
秋実真凛は誰からでも愛され、誰にでも優しい女の子ではあるが――実は、気が許せると判断した相手には容赦をしない女の子だということを。
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あとがき
夜の分、更新遅くなってすみません。。。
引っ越しの荷造りしてたら気が付いた時にはこの時間でした(@_@;)
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