占い師
犬神弥太郎
第1話
時折、場違いな占い師が居る。
繁華街なのだが、シャッターの閉まった店の前に占い師が居る。
場違いなのだが、何故か見落とす。
居るような、居ないような。
いつも居るような、そうでないような。
誰かがその前に座って居ることはない。
誰もが、その占い師が居ないかのように通り過ぎていく。
西洋風のローブをかぶり、小さい机を置いて水晶球を置いている。
昔からの占い師らしい占い師の格好だ。
そう思うだけで、もしかしたら違うかもしれない。
通勤で通る商店街。
朝から晩まで居るのだろうか、いつも居る気がする。
何気なく見渡すと居る。
なんとなく声をかけづらい。いや、声をかけても占ってもらう気など無い。
場違いだ。
いつものように目の前を通り過ぎる。
ちらりと見たが、うつむいたままだ。
商売になるんだろうか?
気になると言えば気になるのだが、それだけだ。
自分は夜勤で仕事をしている。だから、夕方に出かけ、朝方に帰ってくる。その時間帯に居る。
常にいるもんだから気になる。
翌日も居た。
翌々日も居た。
ただ、うつむいて座っている。
目の前にある水晶球も気になる。
通り過ぎるたびに、何かが映ってる気がする。
けど、あれだろう? 占い師の方にこちらの運勢が映るなら、こっちに見えるってことはないよな。
映るっていうけど、何が映るんだろう。
運勢の何かのシーンだろうか? それとも何らかの文字だろうか?
占いの勉強なんてしたこともないし、あるんだろうか?
そういえば、占い師ってどうやってなるんだ?
場違いな占い師の前を通るたびに、疑問が増える。
こうやって客の興味を惹くのかな?
やばいやばい。危なくひっかかるところだった。
いつもどおり通り過ぎ、いつもどおりのチラ見。そして、いつもどおりぼんやりと映る何か。
あれだ。そうそう、レンズみたいに占い師が映ってるんだよ。そうに違いない。
いつもどおりの道で、いつもの風景。場違いな占い師もそれに入ってる。
辺鄙な町の寂れた商店街だ。何に遭ってもおかしくない。
何度目か、いや、何百回か。目の前を通りすぎる。
今日は特に水晶球が気になる。
思わず足を止めてしまった。
占い師を少し過ぎたところで、振り返ってしまった。
しかし、水晶球から目が離せない。
なんだ。
占い師の顔は、ここからでは見えない。
被ったローブが顔を隠している。
あちらからも、こっちは見えないだろう。
だが、水晶球。何だアレは。
薄っすらと、占い師の顔が見える。
見える。
顔が。しかし、それは顔か? 本当に、顔なのか?
妙な具合にねじ曲がっているのは、水晶球で湾曲しているからか?
足が動かない。
体が動かない。
視線が水晶球から離れない。
占い師が少しこちらを向いた。
笑っている。いや、微笑んでいる? しかし、それは不気味な笑いだ。
今まで見たこともないようなおぞましい微笑み。
ダメだ。動けない。
夕方の買い物の人の波。しかし、まるで自分と占い師だけが別世界に居るかの様な孤独感。
誰もこちらを見ない。
誰も占い師を見ない。
誰も、自分たちを見ない。
多分アレだ。いつもの自分の様に関係を持ちたくないんだ。
誰も彼もが、そう、見ないふりだ。
多分そうだ。
いつの間にか、占い師がこちらを向いていた。
水晶球に映る顔はそのまま。
水晶球を通して顔を見てたんじゃないのか?
逃げないと。なんか、ヤバイ。
占い師の顔は真顔に戻っていた。
笑っていない。だが、水晶球の中に映る顔は笑っている。
笑っているのがわかる。だが、なんでだ。
占い師が立ち上がった。
音もなく、いや、周りの音が一切しない。
この人混みで音がしない。
占い師は立ち上がるも、ただ立っているだけ。
動けない。逃げたい。
しかし、視線は水晶球から離せない。体も動かせない。
再び、占い師がこちらを向いた。
今度は笑うでもなく、唇が動く。
声は聞こえない。だが、解った。
解りたくなかった。
場違いな占い師が路上に居た。
誰も気づかない。
誰も気にしない。
場違いな上に、占い師らしくない格好。
その占い師は、ずっと水晶球を見つめていた。
見つめていた。
覚えてる事は一つ。
ローブの下に見えた唇の動き。
--次は、貴方。
占い師 犬神弥太郎 @zeruverioss
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