7-4
お父さんの右足のケガは特に酷くて、完治しても歩けるようになるのがやっとかもしれない、お医者様にそう言われた。どうしてこんなに不幸なことばかり起こるのだろう。
私は二日だけ病院で過ごした。
その間、多くの人が私を訪ねに来た。
隣の家のおばさんや近所の子どもたち、仕事関係の人たち。その他には、街でよく見かける衛兵がやってきて、私から色々と事情を聞いた。
衛兵の男の人は名を名乗り、爆発事件の調査をしていると言った。怪我人が六人いて、まだ原因はわからない、それを調べていると教えてくれた。
私自身、何が起こったのか正確に理解してはいなかった。
衛兵はいくつかの質問を私にして、それを書きとめて、必ず返すからと言って首飾りを持っていった。
ひとつだけ言わずに隠していたことがある。
お母さんの形見の首飾りを身につける(どこか一部が肌に触れているだけで)と、知らない文字や数字が視界に映るようになったのだ。どうしてかはわからない。どこを向いても小さな文字と数字が目に映った。
気持ちが悪くて、私は首飾りをなるべく触らないようにしていた。もしかしたら──その予感はあった。
あの事故は、私が。そんな恐ろしい予感が。
病院にいる二日のあいだ、お父さんに一度だけ会うことができた。けれどお父さんは、麻酔で眠らされていた。
当分話すことはできないと看護師さんに言われた。
私は退院した。両手は肘のあたりまで包帯で巻かれていた。週二回、病院に来るようにと言われた。
たった二日で家は完全に取り壊されて、更地になっていた。住むところを失った。お父さんは最低でも三ヶ月は入院することになった。
私は包帯をしたままの状態で花売りの仕事を再開した。治るのを待ってなどいられなかった。お金が無かった。私は、お父さんを担当している看護師さんの好意で病院の宿直室を借りて、夜になるとそこで寝かせてもらった。
そのとき、私は十二歳だった。
事件が起こってから一週間ほどして、看護師さんから手紙を渡された。以前事件のことを聞きに来た衛兵の男の人からだった。
手紙には地図が描かれていた。
その場所で私はキリカさんという若い綺麗な女性に会った。彼女はアラキア王国の首都クライトから来た魔法士だった。
アラキアと言えばゼノン公国と戦争をした国だ。そしてお母さんの生まれた国。
私はキリカさんに、あの首飾りが魔法を使うための道具であること、魔法のこと、私がランク持ち(このときは魔法を使う素質があるとだけ言われた)であることを教えられた。
キリカさんの話はわからない単語ばかりだったけれど、首飾りを手にしてからの疑問のいくつかは解けた。
あの爆発を起こしたのはあなたよとキリカさんは言った。
仮説ではなく、確信を込めて言った。
首飾りの裏側にはとても小さなツメがあり、それを倒すことで魔法を使うことができる状態になるらしい。
お父さんと私が首飾りを取り合ったときにツメが倒れて、そのあとの私の動きで偶然(キリカさんは奇跡的と言っていた)魔法が発動してしまったのだろう、と説明された。
首飾りを返された。
受け取ると、小さな文字と数字が目に映った。あの事件が起きてしまった直後、首飾りはこの状態だった。鎖の先についているペンダントの裏のツメを倒すと、視界から文字と数字が消えた。
私がお父さんに怪我を負わせたのだ。
キリカさんは、首飾りのツメさえ倒さなければ二度と同じことは起こらないと教えてくれた。それからアラキア王国にある魔法士の学校に行くことを私に薦めた。
悩むことはなかった。
私はお父さんを置いて街を出ることはできない、と断った。それでもキリカさんは念のためにと推薦状を書いてくれた。
必要ないと思いながらも、私は推薦状を受け取った。
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