愛すべき君に両手いっぱいの花束を

i & you

第1話

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恋に落ちるのは愚かな行為だ。…と言いきることはできないが、重力にその責任はないだろう

──アルベルト・アインシュタイン


1

花を見かけた。つい、昨日の話である。ただの花だ。取り立てて華やかなわけでもなく、けれど少なくとも僕の目を引きつけるくらいに鮮やかな花。

雨上がりの帰り道。一人で鼻唄なんて歌いながら水たまりを飛び越えた、その先に。

花が咲いていた。たった1輪だけ。

そんな所で無垢な顔を晒していたから。

僕は思わずかがみこんでしまった。

道の真ん中に咲いていたその花は、無遠慮な車なや無邪気な笑顔にいつ踏み潰されるか分からない。

その全身からは雨水が滴り、だから、それが僕の庇護欲を掻き立てた。

ここで僕が摘んでしまえば、きっと

二度とまたこの場所に戻ってくることは無い。けれど、見殺しにしてしまうのも情けないし忍びないので。

「ねぇ、君のことを摘んでいいかな。

君がここにいるのを、見つけちゃった責任として。ほら、見殺しには、したくないから。」

気づけば話しかけてしまっていた。いけない。ありもしない、周囲からの奇異の視線に怯えて、僕は思わず周りを見渡した。

人っ子一人いなかった。

当然だ。人通りの少ないこの道でなければ、とっくにこの子は死んでいただろう。

別に返事を期待する訳もなく、ただ1人話しかけている姿は、客観的に見なくても十分に気持ち悪い。

花の花弁が風に揺れて、どこか返事をしているように思えた。

「もう、帰って来れないだろうけど、それでもいいかい?」

罪滅ぼしの言い訳のような気分になって、自分でも苦笑する。

それでも、道の途中で見かけた花を持ち帰ろうとする程に自分にはまだ情が残っていたのだと、そう自覚した。

うん、と今度はか細い声がして、

僕はまたにっこりと笑いかけた。

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