夢物語

となし

第1話 プロローグ

 揺れるカーテンの隙間から差し込む日の光が、部屋で独り横たわる少女を照らす。

 その少女はただ静かにそこにいた。

 眩しげに顔をしかめることも寝返りを打つこともしない。

 死んだように眠る少女の命は機械的に流れる電子音によって周知される。


 まだ寝てるの? あれから二年もたったけど、まだ眠たい? 


 安らかに眠る少女の、髪を撫でるその女性は語りかける。

 今日この瞬間、突然目覚めてくれるかもしれないという僅かな希望をもって。


 ……じゃあ、しょうがないわね。ホントは寝過ぎもよくないけど……

 そう言えば、お友達たくさん来てくれたわ。

 一緒に学校に行こうって。

 早く起きて元気な顔を見せてあげなさい。


 ――それは変わるはずのない今のはなし。


 その部屋で娘を想う母は願う

 当たり前の日常を。


 掛け替えのない友達とときに笑って、ときにケンカもするけれど許しあって仲直りして、またバカやったりして。


 ――それはありふれた日常のはなし。


 それから、恋をしてみるのもいいかもね。

 貴方は奥手だからなかなか思うようにいかなくて悩んで枕を濡らす日もあるかもしれないわ。失恋なんかも経験して……

 知ってる? 失恋より女を磨いてくれるものは無いのよ? コレ人生の先輩からのアドバイスね。


 ――それは来る筈のない未来のはなし。


 ……お母さんはいつでも貴方の傍に居るからね。


 その部屋には、少女の命を告げる電子音が、変わらず鳴り続けている。


 ――これは少女に紡ぐ、夢物語だ。

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