第終話 孤独
放課後、部室に来てみれば誰もいなかった。
「御神楽先輩は今日バイトか」
俺だってそう月に何回も通える程の金は無い。ただでさえ萌え四コマ漫画のコミックスは値が張るのだ。今日は行かない! というより行けない!
「宝来は締切だったな」
昨日、新人賞が近いので明日は来れませんとか言っていた。
定位置に座ったところで携帯が鳴る。見てみれば『今日は演劇部の練習で部室行けないから! 林檎ちゃんも一緒ね!』と、咲夜からメッセージが入っていた。
結局、演劇出ることにしたのか。物好きな。
御神楽先輩は断ったのだろうか? それともバイトで参加出来なかっただけか? 薄紅先輩は目立ちたがりなところがあるので意外でもない。咲夜はどうせ漫画のネタ探しか何かだろう。
誰もいない部室。
窓から差し込む夕日に照らされた長机。
外から響く吹奏楽部の練習の音に、サッカー部と女子テニス部と思しき声。
窓から外を見てみると都筑先輩が帰るところだった。同学年と見られる女子五人と連れ立って歩いている。都筑先輩は真ん中だ。らしい人だ。
こっちを見た。大きく手を振られる。恥ずかしいな。他の先輩もこっちを不思議そうに見上げた。小さく返す。笑ってまた前を見て去って行った。
ふと寂しい気持ちになった。最近はいつも皆が部室にいた。
みんな、夢や目標、やりたいことに向かって頑張っているんだ――。
「帰るか……いや」
どうせならここで萌え四コマ漫画でも読んでいくか。
何故だか、猛烈に作り物の日常に浸りたくなった。
「確か……ああ、あったあった」
漫画部の先代の先輩が残していった萌え四コマ漫画。数年前に連載が終わった当時の月刊らららの準看板作品。それの第五巻。
この巻では、いつも友達と一緒にいる主人公が、その日は皆と予定が合わず、珍しく一日一人で過ごすという萌え四コマ漫画ならたまーに見られる回が載っている。
好きな回だった。
もう何回読んだのか忘れてしまったくらいに。
了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます