番外編 十華のお仕事!②

【十華】葉隠桜専用スレ【腹ペコ】


186:名無しの国民


〇〇〇のグルメイベント~大食い大会での動画 new!


大々的に開催されたグルメイベントで、葉隠さんがまさかのゲスト出演。事前の告知が無かったのでほぼゲリラと一緒。ステージに現れた瞬間、会場は歓声に包まれた。

開催のあいさつの後、葉隠さんは四十七都道府県の様々な食材や郷土料理を食べる大食い大会に参加。見事優勝を飾ったのであった。



~~~



214:名無しの国民

>>186の大食い大会の動画って昨日の奴だろ?

あーあ、葉隠さんが来るなら俺も遠出して行けばよかった


215:名無しの国民

葉隠さんの私服可愛いすぎか?


216:名無しの国民

葉隠さんって未だに在野の魔法少女だから、こういう政府の宣伝みたいな仕事はあんまり受けないから珍しいな


217:名無しの国民

しかもあえての大食いイベント《笑》

ご自分のキャラをよく分かっていらっしゃる《笑》


218:名無しの国民

>>217

本人は自覚していない可能性もあるぞ

始まる前に司会が意気込みを聞いた時だって、恥じらいながら「そんなに食べる方ではないと思うんですけど……」って言ってたし


219:名無しの国民

え??そんなに食べる方ではない??? 《以前の目撃情報のログを見つつ》


220:名無しの国民

飲食店でメニューの端から端まで一気に頼むような奴が大食いじゃないわけないんだよなぁ


221:名無しの国民

そんなこと言いつつ、大食い自慢の芸能人をぶっちぎりで抜いて優勝だしな

全然隠す気ないだろ《笑》


222:名無しの国民

試合終了時なんか、自分が積み上げた皿の量を見て「あ、やば」みたいな表情してたよな

うっかり食欲を抑えきれなかった葉隠さんは間違いなく可愛い《確信》


223:名無しの国民

限度ってものがあるんだよなぁ

あの量は流石にドン引きですわ


224:名無しの国民

でも沢山食べてても、なんか見てて気持ちがいい食べ方なんだよな。育ちがいいのか、箸を口に運ぶ所作が無駄に美しいし

しかも一つ一つどの辺が美味しいかのコメント付きだぜ? 宣伝する側にとってはこれ以上ないほどの広告塔だよな


225:名無しの国民

実際イベントでの出店の売り上げは過去最高だったらしいぞ


226:名無しの国民

そういえば以前潰れかけた和菓子屋が「葉隠さんが来てくれた!」って写真と一緒にSNSにUPしたら、滅茶苦茶バズったことがあったな


227:名無しの国民

>>226

俺も飲食店やってるけど正直すげえ羨ましい。ぶっちゃけ金払ってでも来て欲しいくらい


227:名無しの国民

流れぶった切って悪いけど、昨日大食い大会の後に出店を回ってる葉隠さんの写真を撮ったからUPするわ。一応本人にも撮るとき確認とったから大丈夫だと思う

http:~《葉隠桜が両手に大きなクレープと山盛りのアイスを持って笑ってる写真》


228:名無しの国民

はぇーまだ食べるんです?《震え声》


229:名無しの国民

後ろにスペキャ顔してる売り子が写ってなければきっと完璧な写真だったな……


230:名無しの国民

ちなみにこの後、たい焼きと焼きそばの屋台を梯子してた。葉隠さんの胃袋は異常だからもう気にしたら負けだと思った方がいいぞ


231:名無しの国民

葉隠さん家のエンゲル係数えげつなさそう


232:名無しの国民

そりゃみんなお布施代わりに食べ物を送り付けるわけだ……






◆ ◆ ◆






 葉隠桜がイベントに参加した次の週。雪野雫は政府の中庭で真っ赤な夕日を背に受けながら、手に持った皿に大量に積まれた肉と野菜を見て大きなため息を吐いた。


 中庭にはいくつものバーベキュー用の器具が置かれ、食堂のスタッフが大量に積まれた野菜や肉を次々と焼いている。そして仕事終わりの政府職員や、待機中の魔法少女などが思い思いの場所に陣取りながら歓談していた。


「はあ、何故僕がこんな面倒なことに巻き込まれなくちゃいけないんだ」


 思わずそう溢した雪野に、隣にいた葉隠が申し訳なさそうに頭を下げた。


「ごめんなさい。こうでもしないと、中々送られてきた食べ物が消費できなくて……」


「生ものは送ってくるなと君のファンによく言っておけ。こんなことが恒例になったら迷惑だからな」


「はい、肝に銘じます……」


――事の発端は、葉隠桜がイベント事に出席したことに繋がる。

 葉隠がグルメイベントに出席し、その様子が取材に来ていたTV局によって全国放映された結果、なにが起こったか。――そう、大量の貢ぎ物――しかも生鮮食品が政府に送られてくるという事案が発生した。その数、トラック三台分。一人では到底処理できない量である。


 その知らせを政府の受け取り部署から受けた葉隠は、珍しく引き攣った顔で頭を抱えたらしい。そして政府職員との話し合いの結果、政府の中庭で簡易的なバーベキューが開催されることになったのだ。

……大量に送り付けられた食べ物をそのまま捨ててしまうのは、流石に外聞が悪かったのだろう。


 なお、バーベキュー用の機材は葉隠桜が責任を感じて私財で用意したそうだ。まあ、彼女――A級の魔法少女にとってはその程度の出費なんて微々たる物なので、特に問題はないだろう。


 そんな急遽決まったバーベキューだが、政府内での反発は意外にもあまりなかった。

――基本的に、魔法少女を管轄するこの機関にはあまり娯楽が存在しない。人の命が掛かっているという性質上、外の施設で陽気になって騒ぐということが出来ないのだ。それが例え政府内での出来事だったとしても、叩く者は容赦なく叩くことだろう。


 だがそれが、十華の微笑ましいお願いから始まったイベントだと銘打てば、多少は世間の目も変わってくる。


 そんなある意味Win-Winの理由もあり、政府職員や魔法少女からもこのイベントは比較的温かい気持ちで受け入れられていた。


「それにしても、君は本当によく食べるな。そんなに燃費が悪いのか?」


 黙々と皿の上の食べ物を消費していく葉隠に、雪野はそう問いかけた。

 柩の一件でそれなりに親しくなった葉隠に乞われるように中庭に連れ出されてから早一時間、彼女は成人女性の食事量をはるかに上回る量を食べ続けている。いくら並み以上の身体能力を有する魔法少女でも、流石に行き過ぎているとしか思えなかった。


「うーん、以前はそうでもなかったのですが、最近急にお腹が減るようになって。何を食べてもあまり満腹感を感じないんですよ」


 そう軽い様子で告げた葉隠に、雪野は眉をひそめた。


「……軽く言っているが、それは少し問題なんじゃないか? 体に異常が出ているということだろう? あまり放置しない方がいいと思うが」


――最近ということは、ここ数か月での話だろう。雪野が見る限り病気などの疾患を抱えている様には見えないが、万一ということもある。

 雪野が語気を強めてそう言うと、葉隠は困った顔をして誤魔化すように笑みを浮かべた。


「念のため病院で検査はしてもらいましたけど、何の異常もなかったんです。それにええと、私の契約神が食べることに関わる権能を持っている方なので、恐らくその影響だと私は思ってるんです。ほら、食べてる割にはお腹もそんなに出てないですし」


 そう言いながら葉隠は自分の腹をさすっていたが、確かに食べた量に対して全く腹が出ていなかった。まるで、食べた物が何処かに消えてしまったかのように。


……だが契約神の影響というならば、そこまでおかしい事ではないのかもしれない。けれど、契約神の影響が出るには、葉隠桜はまだ魔法少女として活動した期間が短すぎる・・・・


 魔法少女は戦闘を重ねる度に器の体が最適化され、素の身体能力が上がっていく。だが、あくまでそれは人間の持つ実力の範囲内まででしかない。その枠を飛び越える強化――葉隠の様に体の機能そのものが変化するというのは、契約神の力の侵食が深いということになる。


 長い間魔法少女を続けている者には、大なり小なり契約神の影響が出ている者も多いが、葉隠の活動期間はまだ一年にも満たない。


 戦闘回数だけで考えれば葉隠は中堅並みの戦歴があるが、それにしたって影響が出るには早すぎるのだ。対照的に、葉隠よりも一年早く魔法少女として活動を始めた雪野には、目立った影響は出ていない。


……葉隠がよほどその契約神と相性がいいのか、それとも元から馴染みやすい・・・・・・体質なのか。機会があったら調べてみるのもいいかもしれない。


「……君本人がそこまで気にしないと言うなら、別に僕も口うるさく言うつもりはないさ。――だがこれから先、もし不安になる様な変化があったら、僕に相談するといい。僕の医神に口をきいてやる」


 好奇心半分、そして心配半分の気持ちでそう声を掛けると、葉隠ははにかみながら嬉しそうに頷いた。


……本当に、こうして見ていると中身が男だとは到底思えない。女性としての立ち振る舞いの完成度という点においては、雪野よりも葉隠の方が点数が高いだろう。


 そんなことを考えながら、雪野はすっかり冷めてしまった皿の肉を口に入れた。……冷めてても柔らかく味がしっかりしているのが何とも言えない。大人数に行き渡るほどの肉を送りつけた者は、一体どんなランクの肉を選んだのだろうか。そう考えると空恐ろしいものがある。


 鼻歌を歌いながら次の皿を受け取りに行った葉隠の背中を見つめながら、雪野はぽつりと呟く様に言った。


「まあ、たまにはこんな日も悪くないか」


 その雪野の顔には、珍しく穏やかな笑みが浮かんでいた。


 そしてこれは蛇足だが、後日雪野がこの時の事を日向に話すと「は? 私はその日TVの仕事だったっていうのに自慢ですか? 喧嘩なら言い値で買いますけど?」と間髪入れずにキレられた。


……本当に、年頃の女の子が考えることは分からない。そう実感した雪野だった。




あとがき――――――☆☆☆

こぼれ話。

葉隠桜の時は日向、雪野と仲?がよく、七瀬鶫の時は壬生と鈴城と仲がいい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る