インスタグラムがなくなる世界。

@rrkly

第1話

インスタグラムはみのりの生活の全てだった。

朝、目が覚めたらインスタグラムを開く。

昼も気がつけば、インスタグラムを見る。

夜寝る前にもみて、1日が終わる。

インスタグラムはみのりにとって必要不可欠のものだったし、インスタグラムもまたみのりを必要としていた。

お互いがお互いを必要とする、相互依存の関係だったのだ。。。。


人生とは?と人に聞かれればインスタグラムとみのりは答える。

現に、みのりの生活の全てはインスタグラムの上に成り立っていた。

インスタを見ない日は1日としてなかったし、みのりは生活の全てをインスタグラムに記録していた。

綺麗な物を見れば、まず最初にインスタグラムに載せようと思う。

美味しい物を食べるときには、どうしたらもっと美味しそうな写真が撮れるか考える。

旅行をする時も景色を眺めることそっちのけでまずインスタに乗せるための“映える”自撮り写真を撮ることに注力する。

物を買う時もいかに映えるかを重視するから、機能性よりもデザイン性で選ぶ。

もちろん、流行と限定と言う言葉には弱く、流行りに遅れないながらも、自分の個性も演出するために最新の注意を払っている。

そんな、日々をみのりは楽しいと感じていたし、友達からインスタグラムを褒められたり、いいねの通知がきたり、フォロワーさんが増えたりすることが人生最大の喜びであり、そのために日々過ごしていると言っても過言ではなかった。

どんなにうまくいかない日でもインスタグラムの中の自分はキラキラしていて、スタバの写真と共に「今日も充実でした〜」なんて投稿すれば、本当に充実した1日だったような気持ちになるのだった。


みのりとインスタグラムの関係はまさに一心同体だった。


それなのに、そんな当たり前の日々は長くは続かなかった。

21××年、インスタグラムはサービスを停止した。それは突然の出来事だった。


インスタグラムのサービスが停止するその事実を知った瞬間、みのりの目の前は真っ暗になった。いきなり停電になったかのような。

どこを見渡しても漆黒の黒。

そんな大袈裟なと思うかもしれない。

でも、インスタグラムはみのりの生活の、人生の全てだったのだ。

みのりがはじめて鰻重を食べた日のこと、憧れだった先輩に彼女がいると知ったあの日、学校で上手くいかなくて、お母さんにあたってしまったこと。

大学の合格発表で合格した時の言いようのない喜び、意外と素っ気なかった高校の卒業式。

そんなくだらないことから人生の一大イベントまで全てをみのりはインスタグラムと共有していた。

それなのに、それなのに、それなのに、、、

インスタグラムがなくなること、それはすなわちみのりの存在が無くなることだった。


インスタがなくなってもなお、みのりはインスタのアイコンを無意識にホーム画面に探そうとしていた。ホーム画面を一通りスクロールして、あ、そっか、インスタはなくなったんだと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

インスタグラムがなくなる世界。 @rrkly

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る