第5章 - 3 援軍(2)

 3 援軍(2)




 幸いすぐに治まったが、もちろん頂上へ向かうことを許されない。

 自分一人だけ――当然、担任が付き添ってはいたが――下山するという悲しみを、ずっと心に刻み込んでいたのだろう。

 さらにそれからは、きっと似たようなことばかりが続いていたはずなのだ。

 そんな優衣の語る話に、老人はただただ静かに聞き入っていた。

 たった数分間の打ち明け話だが、その間しっかり涼太の歩みに合わせて歩き、ずっと優衣の声にだけ集中している。

 そうして大方、こうしている理由を話し終わると、老人は大きく息を吐き、さも感慨深げに声にしたのだ。

「そうかい、それは大変だったね。でも、良かったねえ、こんなにいい男で、優しい彼氏に巡り合うことができて……」

 そんな声は優衣ではなく、涼太を見つめながらのものだった。

 そうして突然、老人の妻であろう婦人までが彼に声を掛けてくる。

「彼氏さん、わたしにね、あなたのリュックを持たせてもらえるかしら?」

 小走りで涼太の前に立ちふさがって、満面の笑みを見せるのだ。

 涼太はもちろん遠慮の意を伝えるが、いいからいいからと言って譲らない。

 とうとう胸に抱えていたバックを両肩から外して、彼女は自分の両腕に抱え込んでしまった。

「それじゃあ、彼女の方は、わたしが持たせて頂こうか」

 すると続いて、またまた見知らぬ老人から、そんな声が投げ掛けられる。

 きっとしばらくの間、二人の様子を見守っていたのだろう。

 そして同様に、この時なん人ものハイカーたちが、どうして負ぶってまでと思っていたに違いない。

 それから休憩を繰り返す度、彼らは二人にリュックを戻し、少し離れた場所で待っていてくれる。

 涼太が優衣の前にしゃがみ込むと、再びリュックを取りに近付いてきた。

 こんな援軍が現れるのは予定外だったが、涼太は元々、負ぶっていくことを覚悟していたのだ。

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