第136話
「付き合ってる人…?」
俺は思わず聞き返す。
あまりに脈絡のない質問だったからだ。
「うん、そう」
宇崎が首肯する。
「つ、付き合っている人っていうんは…男女交際をしている人、って意味か…?」
「そうなるかな」
念のため確認を取る俺に、宇崎はあっさりと首肯した。
「ええと…」
俺は後頭部をかく。
全くもって意味がわからなかった。
どうして今そんな質問を…?
「なんで…その…そんなことを?」
「あっ…いやその…特に深い意味はないんだけどね…?なんとなく気になって…答えたくないなら大丈夫です…」
モジモジとしながら宇崎がそういった。
若干頬を赤くしながら、チラチラとこちらを見ている。
「あー…いやその…別に今付き合っている奴はいないな、うん」
一瞬四ツ井の顔が浮かんだが、四ツ井とは単に一度デートに行っただけの関係で、付き合っているわけではなかった。
「そ、そうなんだ…!そっか、うん…!よかった、かも…」
「え…俺が付き合ってないとなんで宇崎が良くなるんだ…?」
「ひゃっ!?べ、別に…なんでもないよ…!?ええと…それじゃあ、またね、安藤くん…!」
「あ…」
宇崎があたふたとして、逃げるように走っていってしまった。
「な、なんだったんだ…?」
後に残された俺は、しばらくその場に突っ立って惚けることになったのだった。
「珍しいな…四ツ井はまだか…」
俺が教室に着いた時、四ツ井はまだ登校してきていなかった。
いつもは俺よりも先に来て、ホームルームが始まるまでの時間、俺にあれこれ話しかけてきたりしているのに。
何かあったのだろうか。
「ま、大丈夫だろう」
ちょっと登校時間が遅れることぐらい誰にだってある。
それに四ツ井には常に、何人かの護衛がついているだろうしな。
何かあっても大抵大丈夫だろう。
「はぁ…気が楽だな…」
四ツ井に質問攻めにされたりしない朝の時間というのもなかなかに得難い。
俺は背もたれに身を預けながら、ぐるりと教室内を見渡した。
すると、教室の隅の方で、何やらこちらをチラチラ見ながら会話している女子たちが目に入った。
「…」
俺は集中し、一時的に聴力を強化して、その女子たちの会話を聞いてみる。
「…行きなって、宇崎。勇気出しなよ!」
「そうだよ!せっかく彼女いないってのがわかったんだから…!」
「うん…でも、まだこの気持ちの整理がついてなくて…本当に好きかどうかもわからないし…」
「いやいや、宇崎。あんたもう完全に惚れてるって…!命を救われて完全に好きになっちゃってるって…!」
「そうだよ宇崎…!こういうのは勢いが大事だよ…!」
「そ、そうかなぁ…?」
俺はなんだか聞いてはいけない気がして、すぐに会話を盗み聞きするのをやめた。
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