第132話


「もうこんな時間か…」


美久が荷解きをしている間、ダンジョンに潜るために外出したわけだが、途中火事の現場に遭遇したせいですっかり時間がなくなってしまった。


俺は近くのスーパーで夕食の買い出しをしてから、新居へと戻る。


カードキーを使って部屋の中に入ると、そこでは美久がソファに座って一息ついているところだった。


段ボール箱だらけだった部屋はすっかりと綺麗になり、部屋の隅に畳まれた段ボールが重なっている。


ほぼ全ての荷解きを、美久が一人で済ませてくれていた。


「おおお!!すごいぞ美久。助かる!」


「あ、お兄ちゃん。お帰りなさい」


「これ全部一人でやったのか!?本当にすごいな…!」


「えへへ…美久、頑張ったよ」


「偉いぞ」


ソファでぐったりしている美久の頭を撫でる。


美久は嬉しげに目を細めた。


「ほら、美久。今日の夕ご飯は、引越し記念にお肉を焼くぞ。楽しみにしてろ」


「本当!?やったぁ!」


美久が起き上がって、瞳を輝かせる。


夕食が肉だと知って疲れも吹き飛んだようだ。


「お肉っ、お肉っ」


そう呟きながら、広い新居をスキップで回る。


「足引っ掛けて転ぶなよ〜」


俺は興奮する美久にそう注意してから、夕食の準備に取り掛かった。



「…?」


その夜。


ふと、俺は目を覚ました。


すぅ、すぅとすぐ隣からは美久の寝息が聞こえてくる。


俺と美久の寝室は本来別なのだが、新居で一人で寝るのは怖いと、今日は一緒のベットで寝ることになったのだった。


「よく寝てるな…」


安らかな美久の寝顔を見て苦笑し、俺は起こさないようにそっとベットから出た。


そしてベランダに出て、あたりを見渡す。


ピーポー、ピーポーという救急車のサイレンの音が、静かな夜の街に響いている。


視界の端で、メラメラと赤い点が揺れ動いていた。


「また火事か…」


どうやら昼間に続いて立て続けに火事が起こっているようだった。


「不穏だな…」


ここに引っ越してきて初日で二件の火事に遭遇。


俺はなんとなく不吉なものを感じながら、ベランダから飛び降りた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る