第128話
美久が荷解きをしている間、俺はソファで体を休めながらその様子を観察していたが、だんだんと居た堪れなくなってきた。
美久がスキルを使い、また自分でも動いて一生懸命荷物の詰められた段ボールを片付けているのを見て、自分だけ何もしていない罪悪感がどんどん募っていく。
「み、美久…お兄ちゃんちょっと出てくるぞ…」
「えっ、どこにいくの…?」
「ちょっとダンジョンに。ひと稼ぎしてくるよ」
「え、ダンジョンに行くの…?」
「ああ、せっかく引越しも終えたことだし、探索してたくさん稼がないとな」
「そ、そっか…!頑張って!」
「おう。ここは任せていいか?」
「うん!美久一人でも大丈夫だよ」
「ありがとう。じゃあ行ってくる」
笑顔で美久に手を振って、俺は玄関から外に出た。
高級そうな絨毯の敷かれた廊下を歩いてエレベーターでフロントへ。
監視している警備員に軽く会釈をしながら、建物の入り口まで歩く。
カードをかざすと自動ドアがウィーンと開いた。
「このセキュリティなら大丈夫だな」
外に出た俺は、振り返ってそう呟いた。
高い家賃だけあって、セキュリティはほぼ万全に近い。
このレベルなら不審者が中に入るのもほぼ不可能と言っていいだろう。
「よし…それじゃ、ひと稼ぎ行きますか」
俺は安心してダンジョンへと向かう。
「ん…?」
それは探索者センターまでの道のりを半ばまで歩いた頃。
「何かあったのか…?」
ウーウー、カンカンカンカンとサイレンの音が聞こえる。
『道を譲ってください』
『脇に逸れてください』
スピーカーから音声を流しながら、何台もの消防車や救急車が道の真ん中を進んでいった。
これだけの数の救急車や消防車を見るのはそうないことだ。
明らかにただ事ではないと思い、俺は何があったのかを確認することにした。
「インビジブル」
まず透明化の魔法で自らの姿を隠す。
次に浮遊魔法を使って、体を宙に浮かせた。
「あれか…」
上空から救急車の向かった先を見ると、黒い煙がもくもくと立ち上っていた。
「ビューイング」
俺は遠視の魔法で煙の上がっている地点をよく観察する。
「やはり火事か…!」
どうやら火事が発生しているようだ。
燃えているのは、ぱっと見五階建て以上はある集合住宅。
火は建物ほぼ全域を覆っており、消化は間に合っていないように見えた。
「行くか…!」
逃げ遅れた人間がいるかもしれない。
俺は上空を移動し、火事の現場へと向かうのだった。
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