第125話
俺は回復魔法を使って海堂の傷を完治させた。
「いぎぃいい…あ、あれ…傷が…?」
うめき声を上げていた海堂は、自らの傷が完治したことに驚き慌てふためく。
俺はそんな海堂を見下ろしながら喋りかける。
「なぁ、海堂さん。もう十分だと思わないか?」
「へ…?」
「最初は単に俺の実力を試すだけのはずが、いつの間にかこんな悲しい殺し合いにまで発展してしまった。そろそろ馬鹿らしくなってきたんじゃないか?あんたがいいなら、俺はもうこの茶番を切り上げたいんだが」
「は、はいぃいいい!!」
たちまち海堂が土下座をした。
「た、楯突いてすみませんでしたぁああ…!許してくださいっ!!本当にごめんなさいぃいいいい!!!」
最初の高圧的な態度はどこへやら、地面に頭を擦り付けて俺に許しを乞う海堂。
「お、おう…」
まさかここまで態度が変わると思わず俺はちょっと引き気味になる。
だが、これならちょうどいい。
海堂に実力さをわからせたところで、俺は交渉に移ることにした。
「なぁ、海堂さん。あんたに提案がある」
「て、提案…?」
「と言うよりお願いだな。今日ここで起きたことは…誰にも話してほしくない。俺のこの力のことを報告することなく内密にしてほしいんだ。出来るか?」
「そ、それはどうしてでしょう…?」
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだ。実力が知れ渡ると、厄介な連中に絡まれかねないからな」
「な、なるほど…」
「一応あんたにも任務があるだろうから、それができないってんならもう一つ選択肢がある」
「せ、選択肢…?」
「ああ。海堂さん。あんたの記憶を操作して、俺と戦った記憶を完全に抹消することだな」
「ひっ!?」
俺が海堂の頭に手を触れると、海堂が引き攣った悲鳴を上げて小刻みに震え出した。
これだけの力を見せた後だからだろうか。
記憶を抹消する、と言った俺の言葉を少しも疑っていないようだった。
「この力は出来れば使いたくない…もし使えば、あんたの脳に傷を残してしまうかもしれないし…俺の実力を忘れたあんたが、また突っかかってくる可能性も否めない。出来れば選びたくない選択肢だな」
「…っ」
「どうする、海堂さん。俺のことを黙っているか…それとも記憶が消えるか。選んでくれ」
「だ、黙っています…!あなたのことは誰にも話しません…!誓います…っ!!」
俺の足に、海堂が縋り付いてくる。
「本当だな?」
俺はずいぶん情けない姿になってしまった海堂を見下ろしながら確認を取る。
「はい、本当です…!絶対に内密にします…!う、上には上手いこと報告をしておきます…!ですからどうか…記憶の抹消は…」
「よし。それならいい」
この様子だと、俺を裏切ることはないだろう。
海堂の記憶には十分俺の実力が刻まれただろうから、今後無謀な勝負を挑んでくることもなさそうだ。
「じゃあ、俺はこの固有世界を解除する。あんたも自分のスキルの力を解除しろ。いいな」
「は、はい…」
「よし」
海堂が頷いたのを確認してから、俺は自身の古代魔法によって作り出した世界を解除した。
それと同時に、周囲の景色も変わり始める。
海堂がスキルを解除したのだろう。
気づけば俺たちは、もとのショッピング・モール内へと戻っていた。
俺は時計を確認する。
時刻は、海堂が作り出した空間に入る前と全く変わらない。
どうやらあそこでの時間は現実世界では数秒にも満たないと言うのは本当だったようだ。
「はぁ…ったく」
ようやく面倒ごとから解放された俺は、疲労の溜息をついた後に、目の前の海堂に向き直った。
「まだ何か用がありますか?海堂さん」
「い、いえ…何もありません…それでは…」
海堂がペコリとお辞儀をして去っていく。
まだ俺に対して恐怖を感じているのか、その足取りは非常におぼつかなく、挙動も非常に不自然で、海堂は周囲の客の視線を一身に集めていた。
「何してんだが…」
俺は去っていくそんな海堂を見て、呆れた声を漏らしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます