第126話


「ごめんなさい、お待たせしてしまいました、安藤さん」


ちょっかいをかけてきた海堂が実力の差を思い知り、帰っていった後。


トイレに行っていた四ツ井が戻ってきた。


「あれ…?安藤さん。なんかものすごく疲れてません?顔がやつれている気がするのですが…」


「あぁ…いや別に。そんなことないと思うぞ」


話せはしないがいろいろあったんだよ。


お前んとこの人間に絡まれてな。


俺は恨み節の一つでも言いたくなったが、今日は四ツ井にお礼をするためのデートだったことを思い出し、グッと堪える。


「それより、四ツ井。服選びに行くんだろ?早く行こうぜ」


「そうでした…!行きましょう…!安藤さん、ぜひ好みを聞かせてくださいね」


「ん?好み…?」


「はい。安藤さんの好みに合わせて買うつもりですので」


「…そうかい」


軽い足取りの四ツ井に手を引かれ、俺は服選びに向かうのだった。



「ただいまー…はぁ、疲れた」


「あっ、お帰り。お兄ちゃん」


四ツ井とのデートを終えて俺が家に帰る頃には、時刻は午後9時を過ぎていた。


あれから四ツ井と共に俺は服選びをしたり、家具を見て回ったり、本屋に立ち寄ったり、CDショップで流行りの曲を聴いたりと、ショッピング・モールを満喫した。


四ツ井とのデートは正直言ってかなり楽しく、ついつい時間を忘れて楽しんでしまった。


「すまん、美久…遅くなったな」


「ううん、大丈夫」


俺は帰りが遅くなってしまったことを美久に謝る。


「美久。俺がいない間、何事もなかったか?」


「うん。大丈夫だよ」


「そうか」


「お兄ちゃんこそ、大丈夫だったの…?こんなに遅くまでダンジョン探索…?」


「いや、今日はその…」


デートしていた、とは言いづらく俺は曖昧に誤魔化した。


「ちょっと行くところがあってな…それで遅くなったんだ」


「ふぅん…?」


首を傾げる美久。


これ以上追求されると困るため、俺は慌てて話を逸らした。


「それより、美久!そろそろ引っ越しだぞ…!心の準備は出来ているか…?」


「…?う、うん…わかってるけど…」


「いよいよここを離れられるんだ。ワクワクしないか!?」


「わ、ワクワクはするけど…」


その後もちょっと訝しげな美久に、俺は必死に引越しの決まった新居の話をするのだった。




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