第123話


「た、体力を…回復っ…」


深呼吸を繰り返し、ある程度脳に酸素が回って思考が回復したのか、海堂が力を使って自らの体力を回復させる。


「おい、大丈夫か?」


俺はしゃがんでいる海堂の肩をポンポンと叩く。


「ひ、ひぃ!?」


海堂が引きつった声を出して飛びのいた。


「おい、どうした?」


「…っ、ぐ、ぐぅうううう」


「…?」


「く、来るなぁあああ!!!化け物ォオオオオオオオ!!!!」


「は…?」


調子を尋ねようとしただけなのに、海堂はなぜか絶叫して俺から距離を取った。


「な、なんなんだお前はっ、意味がわからないっ…一体なんなんだよぉおおおおお!!!」


「いや、急にどうしたんだよ…」


何やら錯乱してしまっている海堂。


体をブルブルと震わせながら、俺に向かって捲し立てる。


「お、お前はここで殺す…っ、もう手加減はなしだっ…全力でお前を殺すっ…」


「いや、だからなぁ…」


腕試しのつもりが、なんで命のやり取りに発展してるんだ。


俺はそう突っ込もうとしたが、しかし、もはや海堂は俺の言葉なんて聞いていなかった。


はぁ、はぁ、と肩で息をして、目を血走らせ、明確な殺意を俺に向かって向けてくる。


「まずは…お前を閉じ込める…!そのための、部屋を作り出す…!」


海堂が力を使ったのがわかった。


一瞬にして周囲の景色が変化した。


「…?」


気づけば俺は、どこともしれない無機質な部屋の中にいた。


鉄の壁に囲まれた、正方形の部屋だ。


どうやら海堂は俺を閉じ込めるための空間を作り出したらしい。


「なんだこの部屋?」


半分独り言のつもりでそう口にした。


するとどこからともなく海堂の声が聞こえてくる。


「よく聞け、安藤…!その部屋は鋼鉄で作られた絶対に出られない部屋だ」


「はぁ」


見りゃわかる。


「鋼鉄の厚さは1000メートル。お前の力がどれだけ強かろうと、出られない場所だ」


「1000メートル…そんなことも出来るのか」


「ああ。出来る。俺はこの空間では神のように振る舞えると言っただろう。誰にも負けはしない」


「…」


さっきまでの怯えた感じはもう海堂にはなかった。


最初の自信を取り戻したかのような冷静な口調だ。


「こんなところに閉じ込めて、何がしたいんだ?」


「それはもちろん…安藤。あんたに勝つためだ。あんたを倒すことで…私のスキルが最強であることが証明される」


「いや…倒すったって…閉じ込めてちゃ倒せないだろ」


俺は呆れてそう言った。


すると、どこからともなく聞こえてくる海堂の声が愉快げに言った。


「そうでもないさ。上を見てみろ」


「上…?」


言われて俺は上を見る。


「お…」


そしてあることに気がついた。


「天井が…下がっている?」


そう。


鋼鉄の天井が少しずつ下がってきていた。


「気づいたか。そう…その部屋は少しずつ収縮している。やがては完全に閉じて、中にいるお前は潰されるだろう」


「…なるほどなぁ」


直接倒せないから、こう言う手段に打って出たと言うことか。


よく考えると、俺は思わず感心してしまっ た。


「潰れて死んでいけ、安藤。私のスキルを愚弄した罰だ」


「いや、別に愚弄してなんて…」


「私のスキルは最強なんだ…!敗北は許されない…!もう、安藤!貴様がどんなスキルを持っているかなど関係ない…!お前にはここで死んでもらう…っ!そうすれば私が…私が最強なんだ…っ!!」


「はぁ…どうしてこう、どいつもこいつも…」


強大な力を手に入れた人間はここまで思い上がってしまうのか。


似たようなやつを異世界で…いや、ダンジョンが出現してからのこの世界でも散々見てきた俺は、思わずため息をついてしまった。


結局人間の本質はどこにいっても変わらないと言うことか。


「死ぬがいい、安藤…!お前が死ねば俺が最強だ!!」


そんなセリフを最後に海堂の言葉が途切れ

た。


そして天井が下がってくる速度が増す。


「どうすっかねぇ…」


俺の頭の中にはこの状況をくぐり抜ける選択肢が無数にあった。


例えば透過の魔法を使う。


例えば溶解の魔法を使う。


例えば時間を巻き戻す。


「…たく」


海堂は完全に俺を殺したつもりでいるが、悪いがこの程度では俺は死なない。


「というか、殺そうとするなんて普通に殺人罪だよな…あいつ、四ツ井財閥の人間だかなんだか知らないが、ちょっとお灸を据えてやる必要があるな…」


俺はこの状況を打開する無数の選択肢の中から、一つを選び出して実行する。


「ユニーク・ワールド」


古代魔法の一つ。


固有世界を俺の周囲に展開した。




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