第122話
「キンリョク…ビンショウ…キョウカヲカイジョ…!」
海堂が肉体強化を解いたらしい。
体が萎んで素の大きさに戻る。
いつの間にか、破裂した服も元通りになっていた。
「これだけやってもまだあなたのスキルの底が見通せませんよ、安藤さん」
初めのスーツ姿に戻った海堂が、居住まいをただし正面から俺を見据える。
「一体あなたのスキルの力はなんなのですか?」
「…さあ、な」
「教える気はない、ということですか?」
「別に教えてもいいが…炙り出すんじゃないのか?俺の能力を。さっきまでの威勢はどうした?」
一応戦っているわけだし、俺は手の内を明かすつもりはなかった。
と言っても俺のこの力はスキルではなく魔法なので、真実を話したところで大して意味はないのだが。
「ぐっ…調子に乗って…」
プライドの高い海堂の顔が屈辱に歪む。
「いいでしょう…安藤さん…その勝負受けて立ちます。ここからは私の全力をあなたにぶつけて……必ずあなたのスキルの全貌を暴
く!」
「おう、来いよ」
ここまできたのだから俺も海堂にとことん付き合うことにした。
海堂曰く、この空間でいくら時間が立とうとも現実世界の時間にしたら一瞬にも満たないということだったので、四ツ井のことも心配ない。
俺は全力を出すと宣言した海堂に、こいこい、と手招きをする。
「行きますよ…安藤さん…!」
海堂が鋭い瞳で俺を見据える。
俺は海堂に対して構えをとる。
「肉体強度、敏捷を1000倍に強化…!」
「…おぉ」
海堂が力を使った。
その存在感が桁違いに膨れ上がる。
肉体強度と敏捷の1000倍強化。
先ほどまでの乏しい存在感が一転。
その強さが一気に魔王軍幹部クラスまで跳ね上がる。
「コレデ…アナタヲタオス…」
海堂がボソリとそう呟いた。
それだけで周囲の空気がビリビリと震える。
「久しぶりだな…この感覚」
俺は思わずニヤリと笑ってしまった。
強者と対峙する感覚を久々に思い出したからだ。
「さあ、こい、海堂」
「ーーーーッ!!」
俺がそう言った次の瞬間、海堂が爆ぜた。
地を抉り、ほとんどゼロに等しい時間で俺の間近まで肉薄してくる。
「おっと」
俺は初撃を右に移動することで交わした。
空を切る海堂の拳。
ボッ!!!!
「おぉ…」
爆発音とともに衝撃波が生まれた。
空ぶった拳が衝撃波を作り出し、地面を抉る。
「ナ…ンダト…」
避けられるとは思ってなかったのか、海堂が目を見開いた。
「シンジラレン…イッセンバイノハヤサダゾ…モクシスルコトスラフカノウナハズダ…」
もう今日何度目になるかわからない、あり得ないものを見る目を俺に向けてくる。
俺は海堂に不敵な笑みを向けながらいった。
「たまたま避けられただけかもしれないぞ?繰り返しやれば当たるかもしれない。試してみたらどうだ?」
「…ッ!!」
海堂の姿が掻き消えた。
直後、背後に気配。
「ほいっ」
俺は地面を蹴って宙に逃れる。
ブォン!!!
俺の体があった場所を海堂の蹴りが通過していった。
またしても衝撃波が生まれ、地面を蹂躙する。
「っとと」
俺は抉れた地面の上に着地した。
「ナ…ア…ア…」
「どうした?もう終わりか?」
「ウオオオオオオオオオオ!!!!!」
海堂が雄叫びを上げた。
がむしゃらに拳を、蹴りを、繰り出してくる。
ドガガガガガガガ!!!!
周囲を衝撃波と轟音が蹂躙した。
「ウオオオオオオオオオオ!!!」
「へいっ、ほいっ、おっとと」
連続で繰り出される海堂の攻撃は、その一発一発が、鋼鉄をも打ち砕くようなスピードとパワーを持っていたが、しかし、ただの一発も俺に当たることはなかった。
未来視の古代魔法。
俺は魔法で海堂の攻撃の軌道をあらかじめ把握して、それに合わせて動いていた。
流石にこれだけの速さの攻撃を、素の反射神経のみで防ぐのには無理がある。
よって、俺は最強の古代魔法の一角である未来視を使用したのだ。
せいぜい数秒先の未来を見通せるだけのこの魔法だが、戦闘では大いに役に立つ。
海堂がいくら攻撃しても、俺を捕らえることは不可能だ。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
やがて体力が尽きたのか、海堂の攻撃が止んだ。
ぜぇ、ぜぇと苦しそうに酸素を求めて喘いでいる。
あれだけのラッシュだ。
体力も相当削られたことだろう。
酸素不足で思考できないのか、能力で自分の体力を回復させることすら忘れている。
「…」
流石に今攻撃したら可哀想なため、俺は海堂の体力がある程度戻るのを待つのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます