第119話


「どうしたのですか?勝負は始まっていますよ?」


勝負が始まっても一歩も動かない俺に、海堂が首を傾げる。


どうやら攻撃されたことすら認識できていないようだった。


「来ないのですか…?なら、こちらから…」


俺に向かって一歩目を踏み出そうとした海堂は、驚愕に目を見開いた。


ようやく気がついたようだ。


自分の片足が、膝から下が切断されていることに。


「なっ…?」


バランスを維持できず、地面に膝をつくとともに驚愕の表情でこちらを見る海堂。


何が起こったのか、全く理解できていないようだった。


「何…を…?」


「治るんだろ?その足」


「え…?」


わざわざ力の説明はしない。


それよりも、俺は海堂が死んでしまわないかが心配だった。


傲慢な態度に少しイラッときて思わず手加減なしの攻撃をしてしまったが少しやりすぎだったな。


ちなみに使ったのは、ごく一般的な風属性の切断魔法だ。


無詠唱で、発動時間も極限まで短縮しているために、海堂は何をされたのか認識できなかったようだが。


「治るんだろ?その足。もし無理なら治療するが?」


「…っ」


海堂の表情が怒りに染まる。


ぎりりと歯を噛み締めながら、海堂が立ち上がった。


切断した足はすっかり完治している。


「…な、なるほど…どうやらあなたの実力は本物のようだ…正直侮っていましたよ」


「はぁ」


そんなことを言う海堂。


先ほどの余裕な表情は完全に消え去り、警戒するかのように俺を見据える。


「まさかここまでとは…この固有空間での勝負でなければ、おそらく負けていたでしょうね」


「…俺の実力とやらは確認出来たか?さっさとここから出して欲しいんだが」


さっさとこの茶番を終わらせたかった俺がそう言うが、海堂は首を振った。


「いいえ…そう言うわけにはいきません」


「は…?」


海堂が楽しそうにクツクツと笑う。


「ようやく見つけた好敵手だ…これを逃す手はありません」


「…?」


「安藤さん…あなたなら…私と互角に戦える…初めてなんです。最強の私に膝をつかせたのは」


「はぁ」


唐突にそんなことを言い出す海堂に、俺は生返事を返す。


こいつも強力なスキルゆえに、自らを最強だと過信している類か。


…この手の輩に絡まれると厄介なんだよなぁ。


「こうなったら任務なんてどうでもいい。思う存分戦いましょう」


「いや、別に俺は戦いたくなんて…」


「あなたに拒否権はありません。来ないのなら…こちらから仕掛けるまで!!」


そう言った海堂が、虚空に向かって手を伸ばす。


「ん?」


何をするつもりなのかと見守っていると、その手にいつの間にかピストルが握られていた。


「本当になんでもありなんだな」


この空間では神のように振る舞えると海堂はいった。


どうやらここにいる限り、海堂は無から物質の創造まで出来てしまうらしい。


「さあ、全力でぶつかり合いましょう、安藤さん…!」


引き金が連続して引かれる。


銃声とともに、いくつもの弾丸が俺に向かって飛んできた。



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