第110話


「うわぁあああああああ!?!?」


討伐対象であるオーガを探してダンジョンを進んでいると、前方から大きな悲鳴が聞こえてきた。


「はぁ…仕方ないか…見捨てて死なれても目覚めが悪い」


俺はため息を吐いて、悲鳴のした方に走っていく。


やがて前方に、オーガに襲われている見覚えのある男が見えてきた。


『オガァアアアア!!!』


「死ぬ死ぬ死ぬぅうううううううう!!」


相変わらず後生大事にと端末を手に持ちながら、必死の形相でオーガの攻撃から逃れている。


「ほい」


俺は地面を蹴ってオーガに肉薄し、その胴体に蹴りを叩き込んだ。


ドゴッ!!!


『オガッ!?』


鈍い音がなってオーガの巨体が吹っ飛んでいった。


ドガァアアアアン!!!


『オガァ…』


ダンジョンの壁に激突し、オーガの目から光が失われる。


「おい、大丈夫か?衛宮」


俺は驚いて尻餅をついている襲われていた

男……衛宮に声をかける。


「……あ、ありがとうございます…って、あれ?なんだ俺の名前を?」


「あ、やべ…」


あっけに取られていた衛宮が、俺の声で我に帰り、俺の手を取った。


そして、なぜか初対面の俺が自分の名前を読んだことに首を傾げる。


「どこかで会いましたっけ…?あ、助けてくれてありがとうございます」


お礼を言いながら首を傾げる衛宮。


俺はどう誤魔化そうかと考えていたが、考えてみれば、初対面の俺が衛宮のことを知っていてもおかしくないかと考えた。


「お会いできて光栄ですよ、衛宮さん。俺、あなたの『視聴者』です」


「おおお!!!まじで!?俺の視聴者!?嬉しいぜ!!」


俺の一言で衛宮が色めき立つ。


「まさか自分の視聴者にこんなところであって助けられるなんて!!いやぁ、俺も有名になったものだなぁ…!ははは」


衛宮が嬉しげに笑う。


「じゃあ、衛宮さん…俺、ちょうど帰るところだったんで、出口まで送りますよ」


「お、まじ…?お願いしていい…?いやぁ、実は俺まだ下級探索者でこのへん適正階層じゃなくてさー!護衛頼める?」


「もちろんです」


そうして俺は、衛宮をダンジョンの出口まで送り届けるべく、進み始める。


もう前回のようなミスは犯さない。


密かに探知魔法を使ってモンスターとの遭遇も避けて、帰り道でも戦闘は必要最低限にとどめた。


「衛宮さん、今配信中ですか?」


「ん?そうだけど?」


その途中、俺は大事なことを衛宮に確認する。


「今、同時接続は何人ですか?」


「あー、同接…?四百人だけど?」


「四百…」


「ほら、俺いつもは百人ぐらいじゃん?だけど、今日は無茶したから結構な人が見てるな…ったくこいつら。絶対俺がモンスターに殺されるの期待して見にきやがっただろ」


衛宮が端末を見ながらそんなふうに毒を吐いた。


ふむ、四百人か。


まぁそれくらいだったらなんの問題もないだろう。


「…ったく、衛宮。お前のせいで俺は魔王の核の次に貴重な触媒を失うことになったんだぞ…わかってんのか…」


「え?今何か言った?」


「いえいえ、なんでも」


「そう?」


俺は衛宮ににっこりと笑いながら、ダンジョンの出口を目指す。


こうして俺は、莫大なエネルギーを秘めた魔王軍幹部の魔石と引き換えに、平穏な日々を取り戻したのだった。



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