第109話
「お、お兄ちゃん…今、何もないところからその紫色の石を出さなかった…?」
美久が震え声で尋ねてくる。
「マジック…?なの…?その紫色の石は何…?」
「安心しろ。美久。何も心配することはない。俺が全部解決する」
「え…?解決…?」
こうなった以上、美久に異世界転生や魔法のことについて包み隠さず話したいのだが、しかしここでそんなことをしても無意味だった。
なぜなら今から俺は、全てをなかったことにする。
この莫大なエネルギーを秘めた魔王軍幹部の魔石を使って。
「美久。下がってろ。巻き込まれると危ない」
「な、何する気なの…!?お兄ちゃん、美久怖いよ…ひっ!?」
セリフの途中で、またドアがドンドンドンと誰かによって叩かれて、美久が引き攣った声を出す。
俺はこれ以上美久の辛い顔を見ていられなかったために、急いでとある『古代魔法』の術式を完成させる。
アパートの床に、発光する幾何学文様のサークルが出来上がった。
「お、お兄ちゃん…!?何これ…!?」
魔法陣を見て、美久が戸惑いの声をあげる。
「お兄ちゃんのスキルなの…?でも、お兄ちゃんのスキルは炎を操るもので…」
「美久。今まで隠しててすまない」
「え…?」
俺はせめて『この時点の』美久には正直にありたいと、自分の魔法について明かした。
「俺、実は異世界転生してて魔法が使えるんだ」
「…へ?」
美久が理解できないと言ったようにぽかんと口を開けた。
まぁ、いきなり打ち明けたらそういう反応になるよな。
だが、俺は一応形だけでも美久にこうして打ち明けられて、少し肩の荷が降りた気分だった。
「お兄ちゃん…?どういう意味…?異世界…?魔法…?」
「美久。俺は今から魔法を使う。その魔法で、時間を戻すんだ」
「時間を…?」
「ああ。こんな騒ぎになる前の時点に時間を戻す。そうすれば、また二人で静かに暮らせる」
「わ、わかんないよお兄ちゃん!いきなり時間を戻すとか、異世界とか…!どういうことなのかちゃんと説明して…!」
美久がもっともな叫びをあげる。
そんな美久に、俺は苦笑して首を振った。
「ごめん…いつか必ず打ち明けるから…その時まで待ってくれ」
そう言った俺は、魔法陣に最後の魔力を流し込んだ。
「クロック・バック!時よ戻れ!!!」
そう唱えた瞬間、魔法陣が光だす。
そして俺の全身を浮遊感が包み込んだ。
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