第106話


「はぁ?十万人が見ている…?どういうことか?」


「俺、ずっと今までのことを配信してたんすよ。安藤さん、配信知らないっすか?」


「なんだそれ」


どうやら衛宮が、ずっと端末を肌身離さずに持っていたのは『配信』とやらをするためらしい。


俺は衛宮に『配信』について教えてもらう。


その結果、とんでもないことがわかった。


『配信』とはインターネット回線を使った放送のことらしく、今現在全国で十万人の人間が俺のことを見ているということだった。


「はぁあああ!?何してくれてんだ!?」


自分の戦っている姿が全国に配信されて、しかもその配信動画が色んな人に保存され、一生消えない可能性がある。


そう聞いた時、俺は思わず衛宮に掴みかかっていた。


「いやー、すみませんすみません」


衛宮が平謝りしながら頭をかく。


「ずっと言おうと思ってたんだけど、タイミング逃してしまって…それに、安藤さん。あんたみたいな人を配信しないで、何が配信者だ!ここで配信しないなら、配信者やってる意味ないっすよ!!」


「いやいやいや」


なんか矜持みたいなのを語り出した衛宮に、俺は首を振る。


「今すぐ消してくれ衛宮。さっきも言っただろう。俺はなるべく目立たずに探索者やっていきたいんだ」


「もう無駄っすよ!だって十万人も見てるんですから…!安藤さん。諦めて今日から有名人として生きましょう!」


「冗談じゃない!」


俺の名前が知れ渡るなんてことになったら、俺は常に人々の監視の目に気を使いながら生きていかなくてはならなくなる。


そんなのはごめんだ。


十万人がすでに俺のことを見てしまっていて、さらに広まる可能性があるとなると、魔法の秘匿も難しくなってくる。


…くそ、衛宮。


お前、本当にやってくれたな。


「うへへ…これで俺も一気に有名配信者っすよ…今日だけで登録者も二万人増えました…!本当、ありがとうございます…!」


どこまでも自己中な衛宮は、自分を見てくれる人が増えたと喜んでいる。


俺は、こんなやつ、助けない方が良かったのではと半ば後悔し始めた。


「まぁいい…起きてしまったことは仕方がない。ともかく地上へ帰ろう」


ダンジョン内では落ち着いて考えることもできない。


俺はひとまず衛宮を安全な地上に送り届けてからどうするかを考えることにした。


「え…なんだよこれ…」


だが、ダンジョンを出て地上に戻った俺たちを待ち受けていたのは、大勢の人混みだった。

「おっ、出てきた!!安藤さんだ!!」


「おお、安藤さん!!すごかったっすね、さっきの戦い!!」


「安藤さん!一人でキング・ゴーレム倒すとかやばいっすよ!」


「安藤さん!サインください!!」


皆が安藤、安藤と口々に俺の名前を叫び、サインをくれ、握手してくれと迫ってくる。


「まじかよぉおおおおお…!」


もはや目立つとか目立たないとかいうレベルの問題ではなくなってしまったことに、俺は頭を抱えて絶叫するのだった。

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