第86話


「よーし、全員ペアになったな…?それじゃあ、制限時間は十分!いつも言ってるが、相手を傷つけてはいけないぞ!!あくまで安全を確保した上での戦闘訓練だからな!!それでも万一怪我をした場合は、すぐに報告しろよ!!じゃあ、はじめ!!」


ぐるりと周囲を見渡して、全員が二人一組になっているのを確認した体育教師が、開始の合図を出す。


俺はペアを組んだ広瀬と向かい合って、段取りを決める。


「あはは…光栄だな。中級探索者の安藤くんと組めるなんて…」


「あぁ…うん。だが、まだなりたてだからそこまで期待はしないでくれよ…?」


「またまたご謙遜を…中級探索者になれるのって、探索者の中でもほんの一握りなんでしょ?すごいよ、安藤くんは」


「…まぁ、な」


「ええと…実は僕も将来は探索者を目指してみたいと思ってるから、ご教授してくれれば嬉しいかな」


そう言って広瀬が笑いかけてくる。


「わかった。俺のできる範囲でな」


あまり期待されてもらっても困るが、しかし、無碍にもできず、俺は半ば引き受ける形でそう言ったのだった。


「ありがとう…それじゃあ、えっと…最初に僕からスキルを申告してもいいかな…?」


「オーケー。そっちのやり方か」


スキル実技には二つの戦い方がある。


一つは、互いにスキルをあらかじめ申告するやり方。


もう一方は、互いにスキルを明かさずに、いきなり訓練に入るパターン。


前者は、相手のスキルの情報が事前にわかった状態で戦うため危険が少なく、また戦略を立てることもできる。


逆に後者は、互いの力がわからないためかなり危険ではあるのだが、未知の敵に対する対応力がつくと言われている。


今回広瀬が選んだのは前者の戦い方。


これは中級探索者の俺と探索者でもない広瀬では力の差があるため、スキルを明かさずに戦うと危険と判断したためだろう。


「じゃあ、申告するね…僕のスキルは…相手の弱点を見ることの出来るスキルだ」


広瀬が自分のスキルの能力を告げる。


「弱点を見るスキル…?」


「そう。スキルを発動した瞬間に、即座にその人の弱点を割り出すことができるんだ。そしてなんとなくどうやって動いたらいいのかとかも感覚的にわかるようになる。格上相手には通用しないこともあるけど…でも結構使い勝手がいいスキルで、気に入ってるんだ」


「へぇ…面白いスキルだな」


弱点を割り出すスキル、か。


今まで見たことのないタイプのスキルで面白い。


相手の弱点をつくというのは戦略としても理にかなっていて、広瀬は先ほど俺を持ち上げて謙遜してきたが、俺に自ら声をかけてきたことからも、それなりに自信があるのだろう。


「じゃあ、今度は安藤くんのスキルを聞いてもいいかな?」


自分のスキルを明かした広瀬が、今度は俺のスキルを訪ねてくる。


「ああ。わかった。俺のスキルは炎を操るスキルだ」


俺はルールに乗っ取り、自らのスキルを口にする。


「炎を操るスキル?」


首を傾げる広瀬。


俺は実際に手の中に小さな火の玉を作って実演した。


「こんな感じだ。炎を操って…飛ばすこともできる」


手の中に生み出した火球を上空に向かって飛ばす。


「へぇ…そうなんだ…」


俺のスキルを見た広瀬の反応はといえばかなり淡白なものだった。


「意外か?」


「…うん、正直ね。中級探索者だからもっとすごいスキルなのかと」


「まぁ、どれだけ使いこなすかが肝心だからな」


本当を言うとこれはスキルじゃなくて単なる魔法なんだが…まぁ適当に言い訳しておこう。


「そっか…それじゃあ、戦おうか。互いに怪我しない程度に」


「おう」


広瀬の態度が明らかに変わる。


先ほどまでは俺を尊重するような感じだったが、今度は逆に軽んじるような空気が漂っている。


おそらく俺のスキルを知って大したことがないと思ったのだろう。


この勝負勝てる。


そんな自信をひしひしと感じた。


俺と広瀬はある程度距離を取って向かい合う。


「それじゃあ、始めようか!開始の合図はどちらにする?」


「そっちでいいぞ」


俺は開始の合図を広瀬に譲る。


これで実質、先手を無効に譲ったことになる。


「自信満々だね、ありがとう。じゃあ…存分に中級探索者の力を見せてよ!!スキルよ!!安藤くんの弱点を割り出せ!!」


広瀬が俺に対してスキルを使う。


何かを分析しているのか、広瀬は手前の虚空を見たまましばらく動かない。


「…」


スキル使用中の広瀬は非常に無防備で隙だらけだったが、先ほど戦い方を享受すると言った手前、すぐに勝負を終わらせるわけにもいかず、俺は広瀬の出方を観察することにした。


「ん…?」


だがおかしなことに、広瀬はいつまで経っても動き出さなかった。


立ち止まったまま、こちらを凝視している。


先ほどどう動けばいいのかまである程度教えてくれるスキルと言っていたが、動き出さないのは何故なのだろうか。


「おーい、広瀬?やらないのか?」


俺が尋ねると、不意に広瀬ががっくりと膝をついた。


「ない…弱点が…ない…」


「は…?」


「安藤くん…君には弱点がない…なんだこれ…今までこんなことなかった…」


「え…?」


広瀬が呆然とした表情で呟いた。


「僕のスキルで君の弱点は見つからなかった…安藤くん…君に弱点は存在しない…一体何者なんだ君は…」


「…」


茫然自失の広瀬に対して、俺は何も言葉をかけてやることが出来なかった。


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