第83話


「答える義理はないな」


わざわざ手の内を明かす必要もない。


そう思い、俺は天月の質問を跳ね除けた。


しかし、よくよく考えてみれば、後々どうせ記憶を奪うことになるのだから、それなら答えてもよかったかと思った。


「そうか…なら、悪いが力づくで聞き出すとしよう」


「…」


やっぱりそうなるよな。


「安藤省吾。これはお前の力を見極めるための勝負でもある。ぜひ全力でかかってきてくれ。出し惜しみはなしだ」


「…」


こうなるともう説得は無理とわかっているので、俺はあえて何も言わない。


さっさと勝負を終わらせて帰りたい。


というか後藤も一ノ瀬もそうだったが、青銅の鎧はすぐに力試しだとか言って勝負を仕掛けてくるな。


好戦的にも程がある。


青銅の鎧ってのは、実は誰彼構わず襲いかかる危ない集団じゃないのか?


「では行くぞ!安藤省吾!!せめて10秒は持ち堪えてくれよ!!」


そう叫んだ天月が、地面を蹴った。


10メートルはあった距離を一瞬にして攻めてくる。


何かしらスキルを使ってくるのかと思ったが違うようだ。


まずは小手調にスキルを使わない生身の戦いをしてみる、といった感じだろうか。


俺は欠伸の出るような速さの天月の蹴りを身を逸らして交わす。


「はっ、はっ、はぁっ!!」


次から次へと天月が蹴りを繰り出してくる。


明らかに素人の動きではない。


それなりの武術の心得があるものの洗練された動きだった。


…だが、どんなに洗練されていても所詮人間の範疇を超えない。


向こうの世界…アルカディアにはそれこそ、素手で海を割ったり、山を切ったりするような化け物が山のように存在した。


そんなのに比べたら目の前の天月は、可愛いものだ。


せいぜい向こうの世界では辺境村の喧嘩自慢といった程度の強さだろう。


「なぁ、これはいつまで続くんだ?」


俺は天月の攻撃を避けながら、尋ねる。


すっと天月が身を引いた。


攻撃が無駄だと理解したようだ。


「…すごいな。まさかここまでとは」 


先ほどと俺をみる目が違う。


さっきまでは俺を侮るような、余裕のある視線だった。


だが今は明確な強敵を前にした時のそれとなっている。


「残念だが、君を私の武術で倒すのは無理そうだ、安藤省吾」


「…」 


「というわけで、ここからはスキルの勝負と行こうか」


「最初っからそうしてくれ」


「そうもいかないのだよ。なぜなら私のスキルは、間違いなくこの世界に存在するどのスキルよりも強力だ。使えば、どんなスキルを持っている人間でもあっけなく敗北する。だから、スキルを使った時点で私の勝ちは確定する」


「ずいぶんな自信だな?」


「ああ。これまでの戦いがそれを証明してきているからな」


真顔で天月はいった。


自分の強さを全く疑っていない奴の物言いだ。


相当スキルの強さに自信があるのだろう。


「じゃあ、早く見せてくれよ、その最強のスキルとやらを」


「いいや、安藤省吾。君は私のスキルを認識することすらできないだろう」


ふっと目の前から天月の姿が消えた。 


そして次の瞬間、背後に気配が現れる。


瞬間的に移動したかのような速度だった。


俺は後を振り向く。


ニヤリと笑った天月が立っていた。


「驚いたか?認識すら出来なかっただろう?」


「…」


「これが私のスキルの力だ。ふふ…さて、君に見破れるかな?安藤省吾」


心底楽しくて仕方がないといった感じの天月。


「…降参だ。勿体ぶらないで教えてくれよ」


俺は内心うんざりしながらも、天月に合わせる。 


天月がちっちっちと指を振った。


「教えない。自分で考えてみてくれよ」


「…いい性格してるな。お前」


「ふふ…私のスキルに戸惑う人間の顔が、私は好きだ」


「…そうかい」


「それじゃあ、もう一度使うから、今度こそよくみておいてくれよ?まあ、見ることができたらの話だがな」


そういった天月がまたしてもスキルを使う。


直後、時が止まり、周囲を静寂が支配した。


「ふふ…これが私のスキルの力…そう、時を止める能力だ…」


止まった時の中で天月がくつくつと楽しそうに笑う。


「全てのスキルの中で間違いなく最強…戦えば勝負にすらならない…皆、何が起こったのか認識する間も無く私に敗北する…ふふ…」


止まった時の中で天月が、俺に近づいてきた。


「さて、安藤省吾。そろそろこの遊びを終わらせるとしよう。手刀で意識を刈り取る…時が戻った時、君は何が起きたのかもわからずに意識を失うことになるんだ」


そういった天月が、俺のこめかみへ、手刀を放つ。


「おっと」


パシッと俺は止まった時の中で放たれた手刀を受け止めた。


「なっ!?」


天月の目が驚愕に見開かれた。


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