第84話


「なな、なぜだ!?どうして動ける!?安藤省吾!!」


震え声で天月が訪ねてくる。


目の前の現実が信じられない。


そんな表情だ。


「教えて欲しいか?」


止まった時の中で、俺は一歩踏み出しながら尋ねる。


コクリ、と天月が首肯した。


俺はニヤリと笑う。


「教えない。自分で考えろ」


先ほど天月にやられたことを、やり返してみる。


ぐっと天月が唇を引き結んだ。


やがて時が動き出す。


世界が再び周りだし、周囲の喧騒が戻った。


「な、なぜだ…どうして動ける…止まった時の世界で…」


「考えられる可能性は一つだと思うんだけどな」


「…っ!ま、まさか…!」 


天月が思い至ったようだ。


おそらくたどり着いた答えは正解だろう。


「き、貴様も時を止められるというのか…!安藤省吾…っ」


「ご名答」


正解を導き出した天月に、俺は拍手してやる。


「正解だ、天月。俺もお前同様時を止められる。時を止める能力というのは、同時に止まった世界の中で動ける能力でもある。だから…俺はお前が静止させた世界の中で自由に動くことが出来たんだ」


「…っ。まさか私と同じスキルを持ったものがここにもいたとはな…」


天月が憎々しげにそういった。


そりゃあ、そんな反応にもなるよな。


唯一無二だと思っていた、時を止める力。


それが自分ではない、他に人間にも扱えると知れば、大いに落胆するに違いない。


「まぁ、ちなみになんだが…俺のこれは別にスキルではないんだがな」


「は…?」


ぽかんと天月が口を開ける。 


俺はそんな天月に真実を告げる。


「俺のこれは、魔法って呼ばれる力だ。その中でも特に強力な古代魔法。俺の元いた世界では失われた力として扱われていたシロモノだ」


「…は?一体なんの話…」


「まぁ、こんなことあんたは知らなくていい。忘れてくれ…いや、忘れさせる」


俺は徐に腕を上げて、天月の額に手を当てる。


不意のことで天月は反応が追いつかない。


俺は魔法を使って、天月から記憶を抜き去った。


ふっと、天月の瞼が落ちて、その体が崩れ落ちそうになる。


「おっとと」 


俺は天月の体を受け止めて、ゆっくりと地面に横たえた。


「数分すれば目が覚める。その頃には全部忘れてるだろうがな」


「…」


意識を失っている天月は沈黙している。


俺は踵を返して、帰路に着く。


「じゃあな、日本最強の探索者さん。もう俺には構わないでくれよ」


流石にこれで青銅の鎧が俺に関わってくることはないだろう。


あぁ…本当に面倒くさい連中だった。


もう2度と関わり合いになりたくない。


願わくばは、他のクランが彼らのように俺に接近してこないことだな。


俺はただ、一介の中級探索者としてそこそこの金を稼ぎつつ、静かに妹と暮らしたい。

それが俺の唯一にして無二の望みだ。




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