第79話
下級探索者の適正階層である一〜五階層を抜けて、俺たちは中級探索者の適正階層である六階層以降に足を踏み入れる。
中級冒険者である俺が先頭になって暗い通路の中を進んでいく。
「「…っ」」
ふと横を仰ぐと、有村と四ツ井の真剣な表情が見えた。
二人とも適正階層を抜けたからか、先ほどよりは幾分か緊張しているようだ。
これなら途中で仲間割れを起こす、なんて心配もなさそうだな。
「ん?来るな…二人とも、ちょっと待ってくれ」
ふと前方に気配を感じて、俺は足を止める。
数匹のモンスターが纏まって前方からこちらに近づいて来ている。
俺一人なら気にせず突破するんだが、今日は有村と四ツ井の二人がいるからな。
自分勝手に動くわけにもいかない。
「ゴブリン・リーダーのようね」
やがて暗闇から現れたモンスターの名前を、有村が口にする。
『グゲゲゲッ!!』
『グギーッ!』
奇声を発しながら接近してくるのは背の高いゴブリン…ゴブリンの上位種であるゴブリン・リーダーだ。
ゴブリンと比べてスケールが一回りも二回りも大きく、腕力や敏捷に秀でている。
下級冒険者には少し荷が重い相手だ。
ましてや、スキルが回復系であり戦闘の得意でない四ツ井には絶対に倒せない相手。
俺と有村で四ツ井を守りながら戦う必要があるだろう。
「俺がやっていいか?」
これ以上近づかれて少しでも四ツ井に危険が及ぶのを避けたかった俺は、いち早くゴブリン・リーダーを駆除するため有村に尋ねた。
すると有村がかぶりを振る。
「いいえ、その必要はないわ」
有村の口元が歪められる。
「有村…?」
「安藤くん。前に行ったわね。いずれはあなたの方から私とクランを組んでくださいって懇願させるって」
「…そ、そう言う話もあったな」
「いい機会だからあなたに見せてあげる」
「…何をだ?」
「私の実力」
有村が前に歩み出た。
そしてゴブリン・リーダーたちに向かって片腕をあげる。
「潰れなさい」
静かに告げられたその言葉。
同時に開かれた有村の手がぐっと握り込まれる。
次の瞬間。
グシャッ!!!!
『『『…?』』』
ゴブリン・リーダーたちの頭が何かに押しつぶされるようにして潰れた。
リアルな粉砕音がなり響き、頭部を失ったゴブリン・リーダーの胴体がドタドタと地面に崩れ落ちる。
ゴブリン・リーダーたちはきっと何をされたかもわからないままに絶命したのだろう。
断末魔の悲鳴さえ一切上がらなかった。
「どうかしら?」
ゴブリン・リーダーたちを瞬殺した有村が得意げな表情で俺を見た。
「これは…」
正直驚いてしまった。
有村が有名なのは、単にスキルを二つ持つダブルだから、という理由のみかと思っていたが、その認識は間違っていたようだ。
有村には、六階層以降で戦っていけるだけの確固たる実力があった。
「す、すごい…」
流石の四ツ井もこれには驚かざるを得ないようだった。
ごくりと唾を飲んで、ゴブリン・リーダーたちの死体を見ている。
「どうかしら、安藤くん。これが私の実力。どう?私のクラン、入りたくなったらいつでも言ってね」
有村がニヤリと笑いながらそう言ったのだった。
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