第78話


「ちょっと、さっきからなんの話をしているの?」


四ツ井と話していると、有村が割り込んできた。


「ちょっと、せっかく安藤さんと二人だけの世界にいたのですから、割り込まないでくだ」


「四ツ井と出会った時の話だよ」


喧嘩が始まる前に、俺は四ツ井の言葉を遮って有村に四ツ井と出会った経緯を聞かせた。


「なるほど…どうして安藤くんが四ツ井さんと親しげにしているのか、違和感があったけれど、そういうことがあったのね」


「そうです。あれは運命の出会いでした。私と安藤さんはいずれ一緒になる運命だったのです」


「…いや、運命ではないだろ」


「はぁ…なんとも情けない話ね。安藤くん。私だったら、死にかけてあなたの手を煩わせることもないわ。やはりあなたのパートナーに相応しいのは私よ」


「いや…俺は別にパートナーとかは…」


「ちょっと聞き捨てならないですね、有村さん。私なら安藤さんの手を煩わせないって、どこからそんな自身が来るんですか?」


「だって、私、あなたと違って強いもの」


ダブルの有村が自身げに答える。


「ふん、口だけならなんとでもいえます」


四ツ井がつんとして答える。


「あら…じゃあ、試してみる?」


有村の全身から殺気が放たれ始めた。


「やると言うのなら受けて立ちますけど?」


四ツ井も負けじと有村を睨み返す。


「ちょちょちょ、ちょっと待て!!何ダンジョン内で仲間割れ起こしてるんだ!」


これは流石に止めに入らざるを得ない。


ダンジョン内でスキルを使った喧嘩なんて起こされたら溜まったものじゃない。


「二人とも落ち着いてくれ。ここはダンジョン内だぞ?いつ何時モンスターに襲われるかもわからないんだ。気をつけてくれ」


「…すみません安藤さん」


「そうね。少し緊張感がなさすぎたかしら」


有村も四ツ井も存外素直に反省する。


そんな二人に、俺は提案した。


「もし力の優劣をつけたいって言うなら、モンスターとの戦闘でにすればいいじゃないか」


それなら、探索も捗って一石二鳥だろう。


「なるほど…それは名案ね。いいわ。私は乗った」


有村は速攻で同意する。


だが、四ツ井の反応がイマイチ芳しくない。


「モンスターとの戦闘ですか…それだと私が不利ですね…正直言ってあまり戦闘向けのスキルではないのですよ」


「ふぅん?四ツ井さん、あなたのスキル。一体どんなものなの?」


有村がニヤニヤしながら尋ねる。


四ツ井がちょっと悔しげにしながら自分のスキルを明かした。


「私のスキルは回復。どんな怪我でも瞬時に治すことができます。ただし、一日に三回という制限がありますが」


「へぇ…四ツ井のスキルは回復なのか」


意外だった。


もう少し攻撃的な何かだと思っていたが。


「はっ。勝ったわね。回復スキルで一体どうやってモンスターを倒すと言うのかしら」


「た、確かに!直接モンスターを倒すことはできません!しかし、仲間の傷を癒すことが出来ます!!単純な戦闘力だけが評価基準じゃないんですよ、この脳筋!」


「なっ、の、のうき…っ」


有村がギリギリと歯軋りをする。


それに対して、四ツ井は言ってやったといった感じの表情だ。


「どうどう、有村。落ち着け?な?」


放っておくとまた喧嘩が始まりそうだったので、俺は有村を宥める。


はぁ、と有村がため息を吐いた。


「ま、いいわ。私は大人だから譲ってあげるわ」


「ただ逃げただけじゃないんですか?」


「…っ」


「四ツ井」


「…はい」


追い討ちをかけようとする四ツ井を俺は止める。


それからしばらくは、二人は喧嘩をやめて探索に集中してくれた。


俺たちは六階層にたどり着くまでにゴブリンを七匹、スライムを十匹ほど討伐した。


六階層と五階層の境目までやって来たところで、俺は二人に尋ねる。


「一応聞くが…ここからは中級探索者の適正階層だ。それでもついてくるか?」


「ええ、もちろんです」


「当たり前でしょう」


二人ともやる気のようだ。


「じゃあ、いくぞ」


俺たちは頷きあって、六階層に足を踏み入れる。


目指すは七階層以降のオークの生息領域だ。



〜あとがき〜



新作の『トラックに轢かれて気づいたら白い世界のオーソドックスな異世界転生!〜成長チート、言語チート、魔法チートの三つのチートを駆使して剣と魔法の世界を生き抜きます〜』が連載中です。


よろしくお願いします。






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