第35話
「い、いたのか…気づかなかった…すまん」
屋上のベンチに先客がいたことに今更気がついた俺は慌てて飛びのいた。
「災難だったわね。意地汚いクラスメイトに追いかけ回されて」
「え…?」
見てきたかのように言うその人物を、俺は改めて見やる。
「あ、有村…」
「こんにちは。安藤くん。こうして会話するのは初めてのことね」
思わずごくりと唾を飲んだ。
俺はこいつのことを知っている。
というか、この学校に通っていて目の前のこの人物の名を知らない生徒はいない。
有村百合子。
この学校で最も可愛いと言われている女子で、男子から絶大な人気がある。
すれ違った百人全員が確実に振り返るであろう美貌を有しており、聞けば学業成績も優秀なのだとか。
これだけでも有名になるには十分すぎる要素なのだが、実はこれら二つのスペックは彼女にとっては単なる飾りでしかない。
彼女の名が学校全体どころか、ここら地域一帯にまで広まっている1番の理由。
それは、彼女が一万人に1人しかいないと言われている二つのスキル持ち…いわゆる『ダブル』であるからだ。
通常、1人の人間につき、スキルは一つと決まっている。
だが、稀に、たった1人でスキルを二つ有している人間がいる。
そんな人々に付けられた呼称がダブル。
有村百合子はたった1人で、二つのスキルを有している一万人に1人の希少人材なのだ。
噂によると、高校を卒業する前から既にいくつもの有名クランからメンバーに加わらないかという声がかかっているらしい。
学校において彼女の存在というのはほとんど
神格化されており、廊下を歩けば教師ですら道を譲る。
そんな人物が…今、確かに言った。
待っていたわ、安藤くん、と。
まず俺の名前を知っていることに驚きだし、さらにはまるで俺がここへくるのを予期していたみたいな言い方だ。
「どう言うことだ?待っていた、とは」
疑問をぶつける俺に対し、有村は済まして答える。
「あなたがここへくることはあらかじめわかっていた」
「…?どう言う意味だ」
「私のスキル。軽くではあるけど、未来を予知できるのよ」
「…な、なるほど」
少し驚いてしまった。
なるほど、スキルの力だったか。
未来視は俺も古代魔法として扱える能力ではあるが、スキルとしても存在したんだな。
しかし、随分と強力なスキルを持っている。
ダブルってだけでも希少なのに、持っているスキルまで強力とは…
天は二物も三物も彼女に与えたようだな。
「驚いた?ただ一つ言っておくと、未来視は二つあるスキルのうちの弱い方。もう一つはさらに強力よ」
「へ、へぇ…」
わからない。
真偽はひとまず置いておくとして、どうしてそんなことを俺に明かすのかがわからない。
「だから…安藤くん」
徐に有村は腕を上げた。
それからピンと伸ばした人差し指を俺に向ける。
「あなたは私と探索者クランを創設するの。メンバーは2人きり。あなたと私でダンジョンを探索し、モンスターと戦いましょう。それがお互いの利益になる」
「は…?」
突拍子もないことを唐突に言われ、俺は固まったのだった。
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