第36話
「待て待て、なんの話だ?」
一瞬、自分がなにを言われたのか理解できなかった。
私とあなたでクランを作る…?
これはスカウトなのか…?
だとしたらあの有村が、どうして俺を?
「あなたと私のクランの話よ」
「俺と有村の…?すまんが、なぜそんなことになった?」
「私があなたとクランを組みたいと言っているの。このダブルの私が。断る理由なんてないでしょう?」
「つまりこれは…スカウトなのか?」
「そうなるわね」
「…」
あっさりと頷いた有村に俺は瞠目する。
唐突すぎて本当についていけない。
色々と問いただしたいことがあるが、まず1番の疑問はといえば…
「どうして俺なんだ?」
「それは、この学校で唯一、あなたが私のパートナーに相応しいからよ」
「俺が…?」
まるで俺の実力を知っているかのような口ぶりだった。
まさかこいつも俺が中級探索者だと知って取り入ろうとしているクチなのか?
「勘違いしないで欲しいのだけど、別に私はあなたが中級探索者だから誘っているわけじゃない。私のところには上級冒険者が多数存在する有名クランからもオファーが来ている。
そこのところを理解して欲しい」
「お、おう…」
確かに、ダブルの有村に上級探索者のクランから声がかかっていてもおかしくはない。
どうやら有村は、俺が中級探索者になって態度を変えた連中とは違うようだ。
…だとしたら余計に、なぜ俺なんだという疑問が残るが。
「ならどうして自分が私のような完全無欠の選ばれた存在にこうして誘われているのか?恐れ多すぎて、申し訳なくなってきた。あなた今そう思っているでしょう?」
「…いや、そこまで卑屈にはなってないけどな」
「教えてあげる。なぜ私が、安藤くん、あなたを誘うのか。それはね、私があなたの秘密を知っているからよ」
「ひ、秘密…?」
「ええ」
挑戦的な笑みを浮かべる有村。
なんとなく嫌な予感がした。
「二日前の夜…第七ダンジョン周辺でのモンスター・ハザード」
「…っ!?」
有村の一言目で、俺は嫌な予感が的中していたことを悟る。
「私、たまたま近くにいたからハザードの鎮圧に参加したのよ。もちろん、避難誘導には興味なくて、目的はハザード・ボスの討伐。自分のスキルを試すのにちょうどいいと思っていた。それで、騒ぎの中心地で雑魚を倒しながらハザード・ボスを探してた。そして…そこで私はあなたが突然空から降ってきて、ハザード・ボスと相対するのを目撃した」
「…」
「本当に驚いたわ。勝負は一瞬だった。私には何が起こっているのか理解することもできなかったわ。気づいたら、ハザード・ボスは死んでいた」
「…」
時を止める古代魔法を使ったからな。
有村には何が起こったのか認識することもできなかっただろう。
「しかもそれだけじゃないわ。有村くん。あなた、あの後に、大規模攻撃でモンスターの8割以上を1人で死滅させたんですって?」
「…」
「私はハザード・ボスが倒されたあと、すぐに帰ったからその現場は目撃できなかったけど…ニュースで見たわよ。あなたがスキルを使う瞬間」
いや、帰るなよ。
避難誘導に参加しろよ。
「ネットでも有名になった謎の男…あれ、あなたでしょう?安藤くん」
…そうだけど。
でも認めない…
俺は絶対に。
「おかしいと思ったもの。あなたを見たときに見覚えがあると思って…で、一日たってからそういえば同じ学年に似たような顔がいたわねって思い出したの」
「…」
てことは俺を見た時点では同級生だと気付かなかったのか。
酷いなぁ。
一応一年の時同じクラスでしたよね…?
確かに俺は一年の時はいじめられてすらいないモブだったけどさ。
「これがあなたの秘密よ、安藤くん。あなたは実力を隠している。しかも私と同じ、二つ以上のスキルを持つダブルである可能性が高い」
「…」
正確にはあれはスキルじゃなくて魔法なんだけどな。
俺のスキルは、スキルカウンターのみ。
正真正銘のシングルだ。
「というわけで、安藤くん。本題に戻りましょう。秘めたる実力のあるあなたの将来性を見込んで、私とクランを作る権利を与えるわ。感謝しな」
「悪いけど、断る」
「なっ!?」
即答した俺に、有村が目を見開く。
信じられないと言った表情で俺を見た。
いや、どんだけ自信あったんだよ。
自分が誘えば断られるはずがないと思ったのか?
まぁ、確かに俺以外だったとしたら即決で誘いを受けただろうがな。
「お前とクランを作るつもりはない」
「ど、どうして…?あなた正気…?」
「正気だ。そもそも、さっき有村が言った通り、俺は有村に釣り合うような男じゃない。はっきり言おう。有村が二日前に見たのは、俺に似た誰かだ。俺じゃない。俺には秘めたる実力なんてない。今回中級探索者になれたのだって、ずっと前から準備してたのと、あとは運だな」
「…」
スゥッと有村の目が細まった。
「…っ」
俺は少したじろいでしまう。
大丈夫だ。
向こうに確信があるわけじゃないはず。
なぜならハザードが起こった日はかなり暗かったからな。
有村も俺の顔をはっきり目撃したわけではないだろう。
俺が認めなければ、確証は得られないはずだ。
「へぇ…そうやって誤魔化すのね」
「…っ」
いや、これ完全に確信しちゃってますやん…
二日前のあれが俺だって完全に理解しちゃってますやん…
けれど!
それでも!!
俺は認めないぞ。
お前とクランを作るつもりもない。
「まぁ、いいわ。今はそれで結構。でも私がこれで引き下がるとは思わないことね」
「…」
いや素直に引き下がってくれ。
どうして俺にそこまで固執するんだ。
「私も今度探索者試験を受けるつもり。私なら絶対合格できるはずだし、すぐに中級以上になって名をあげることになるでしょうね」
「…」
そうかい。
頑張ろうぜ。
互いに。
関係のないところで。
「そうして必ずあなたの方から私のクランに入れてくださいって懇願させてやる。もしくは、あなたがあの時私が見たのが自分だって認めざるを得ない状況を作ってやる」
「…」
こ、怖い
目がマジだ。
お願いだから俺には構わないでくれ。
お前は素直に上級クランのオファーを受けて、そこに入れよ。
「じゃあ、今日はこれで。安藤くん。そのうちまた会いましょう」
「…」
そう言い残して、有村は屋上を去った。
後に残された俺は、しばらくその場に立ち尽くして呆けてしまう。
仮にも学校一の美少女に「また会いましょう」などと言われたのだから、浮かれたり喜んだりするのが普通の反応なんだろうが…俺は面倒臭いやつに目をつけられたとただただ気分が沈むのだった。
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