第33話
“ご覧ください!これが、二日前のモンスター・ハザード発生の際に、1人の人物によってダンジョンから溢れ出したモンスターのほとんどが殲滅された瞬間の映像です。これは、上空からヘリによって撮影されたものなのですが…その謎の男は、突然空から現れました。そしていわゆるハザード・ボスと呼ばれる強力なモンスター、トロールをたった1人で駆除した後に、大規模攻撃によって、周囲のモンスターをほとんど一撃の元に葬り去ったのです。専門家が映像を解析したところ、男は少なくとも二つ以上のスキル持ち…いわゆるダブルの可能性が高いということです。突如現れたこの男はいったい誰なのか…正体は不明ですが、彼のおかげで市民の命が多数救われ、被害も最小限にとどまったのは紛れもない事実です“
「わー…すごいね、お兄ちゃん。スキルを二つも持っている人がいたんだって」
「へ、へぇ…そ、そりゃすごいな…」
「お兄ちゃんはこの人みた…?1人で数百匹のモンスターを倒しちゃったんだって。インターネットとかでもこの人の話題で持ちきりらしいよ?」
「そそそ、そうなんだぁ…お、お兄ちゃん、避難誘導とか治療とかで忙しくて、そんな人がいたことは気づかなかったなぁ…」
「そうなんだ…って、あれ?お兄ちゃん、なんか顔が青くない?」
「き、気のせいだろ?」
「そう?」
「が、学校行ってくる。じゃあ、留守番よろしく」
「う、うん…あれ、今朝のお兄ちゃん、ちょっと様子がおかしい?どうしてだろ」
モンスター・ハザードから一夜が明けて、今日。
俺はまたもや朝のニュース報道番組に姿を晒してしまい、冷や汗を流しながらアパートを出ることになった。
まさか戦っている最中の映像を撮られていたなんてな。
上空にヘリが飛んでいたなんて気づかなかった。
戦いや怪我人の治療に追われていたとはいえ不注意だったな。
次からは身を隠すことを徹底しよう。
でないと、情報社会の現在ではあっという間に住所とか名前とか特定されそうだ。
そうなったら美久に迷惑がかかる。
スキル以外の力がこの世界に存在する、なんて話になったらそれこそ大騒ぎだ。
ただでさえダンジョンが地上に現れて、カオスもいいところなのに、これ以上の混乱を社会に招きたくない。
魔法の存在は、俺のためにも、そして社会のためにもなんとしてでも隠し通さなくてはいけない。
登校路を歩きながら、俺はそんなことを考えた。
「おいおいおい、乞食やろうじゃねーか」
「昨日はどうしたんだよ?」
「なんで休んだんだよ?理由を教えろよ」
一日ぶりに教室へ入ると、例の三人組が突っかかってきた。
チビ、デブ、ノッポ。
相変わらずの三人セットで、席まで歩く俺をどつき回してくる。
鬱陶しいので、俺は無視して自分の席についた。
「無視かぁ?」
「無断欠席とはいただけねーな?」
「てめーみたいな不真面目がいると士気が下がるんだよ」
もっともらしいことを言ってイチャモンつけてくる三人。
お前ら、俺以外が休んでもそんなふうに突っかかるのかよ。
「おい、理由を言えよ、乞食。てめーのことだ。食うに困ってスリでも働いてたんじゃないのか?」
チビが俺の胸ぐらを掴みながら言ってくる。
…こいつらは、前に俺にボコされたことを忘れたのか?
「離せ」
俺はチビの腕を掴んで力を込める。
「痛いっ!?」
チビが悲鳴をあげて腕を引っ込めた。
俺が睨みつけると、ひぃ!?と情けない悲鳴を悲鳴をげて二、三歩後ずさる。
「な、なんだよ…!?やんのか!?」
「こ、ここじゃみんなが見てるぜ…?スキルを使ったら校則違反で確実にチクられるぞ…!?」
「ぺ、ペナルティを受ける覚悟があるなら、やってみろよ」
力づくで俺に敵わないことを思い出したのか、途端に震え声でそんなことを言い出す三人組。
いや、そんな及び腰になるくらいなら、最初から突っかかって来ないでくれ。
「あのなぁ…俺は昨日は深夜に発生したモンスター・ハザードの対処に参加してたんだ。
だから、授業を休んだ。これで満足か?」
さっさと向こうに言って欲しかった俺は、三人に向かって無断欠席の理由を告げる。
すると、三人は一瞬ぽかんとした後に、腹を抱えて笑い出した。
「ギャハハハハ!!なんだそれ!?」
「言うに事欠いてモンスター・ハザードかよ!?」
「探索者でもないお前が参戦してなんになるんだ!?」
ゲラゲラと床を転げ回って笑っている。
「…っ」
少しイラッとした俺は、財布の中に携帯してる探索者カードを三人の前に提示した。
「嘘じゃないぞ。現に俺は探索者だ。つい二日前に実習をクリアしたばっかりだがな」
「「「なっ!?」」」
三人がバッと跳ね起きて俺のカードを凝視する。
「た、探索者カードだ…!?」
「ほ、本物…!?」
「しかも中級だと!?」
三人が目を剥いて大きな声を出す。
すると、周りの生徒たちがその声を聞きつけて、俺の周りに集まってきてしまった。
「あ…」
まずい、と思った時にはもう遅かった。
俺は好奇心から見物しにきたクラスメイトたちに四方をがっちり固められてしまったのだった。
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