第26話
一時停止、は想像したより難しかった。
私はできるだけ矢代を好きなことを止められるようにがんばったけど、顔を上げるとその視界の中にはどうしても矢代の背中があるわけで、無愛想な顔に似合わずちょっと高めの襟足がかわいいなぁ、なんて凝視してしまうのだった。
肘をついて頭を乗せたその手のひらの大きさとか、痒くてシャーペンで肩を掻く仕草とか、机の上に寝転がったところとか。
後ろの席っていうのはなんて便利なんだろう、と。
黒板を眺めるふりして、いつまでだって大好きな人を見ていられる。
純粋な気持ちとよこしまな気持ちの葛藤。
その戦いのせいで、私の精神はいつもより消耗してしまった。
「ハルー」
ホームルームが終わって、さあ帰ろうと立ち上がったところで、隣のクラスからやって来たサキちゃんが私を呼んだ。
まるでお昼一緒に食べよって、誘いにきたかのよう。
でも私は気が付いてしまう——なんてったって中学からの長い付き合いだもの。
サキちゃんはとぼけた顔で私に尋ねた。
「今日、暇だよね?」
その誘われ方に息を呑む。
私が眉を寄せると、サキちゃんは人懐っこいその顔でわははと笑った。
「ちょっと付き合ってくんない? ちょっとでいいから。途中で用事あるって抜けちゃってもいいから、今夜は私に付き合ってよ」
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