第21話


矢代は髪をガシガシとかきむしって、耳どころか顔を赤くした。



私の方は見なくて、ただ真っ直ぐに前を見ていたかと思ったら不意打ちで私を見るから、思わず背筋をピンとする。



「俺は、はるに対してそういう気持ちになったことない、たぶん。だけど、お前のことは、その、避けられない。それが俺の言い分。フルとかフラないとかじゃなくて、とにかくそれが言いたい。全部なしにして正直に言うと、お前のことすげーいい友達だと思ってる」



ああ、そうよね——そっか。



勝手だったなぁ。



自分勝手だったかもしれない、私。




「ごめんね」




でもどさくさに紛れて私は左腕で矢代の右腕に触れた。



「ずっと友達だったのに、裏切って好きとか言ってごめん。私はもうずっとそうやって心構えしてたけど、そうだよね、矢代はまったくノーガードっていうか、そこへぶちかました感じだもんね。うん、それはダメか。ダメだけど、なんかどうしようもないっていうか……匂わせちゃダメじゃん? だから、えっと……ごめん、正解わかんない」


「——なぁ、怒んなよ?」



男友達の中で見せる貴重な崩した表情の矢代が、私の左腕に右腕で体当たりしてきた。



予想できてないことに私はよろめいて、矢代はそんな私の腕をつかんですぐに離した。




「お前のこと無視できないから、窓開けたんだ。ちゃんと仕事できてなきゃ日直はやり直しだって、テンツクが言ってただろ、前に」


「……矢代が窓開けたの?」


「だからそーだって。日直やり直して、それではると話そうと思った。なのにお前は俺が声かけると緊張するし、目を合わせないし、それでわかった。俺がお前の友達にしたことは失敗だったって。でもいまさら謝れねーじゃん。ただの自意識過剰っつうか、いや、もう忘れたい」


「……わかったよ、わかったから」



私が恋した矢代は、私が思う以上に照れ屋で恥ずかしがり屋で、バカがつくほど真摯な心を持っている。



目を閉じたら涙がこぼれそう——だからベンチの背にもたれて上を向いた。






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